奇跡を信じない男は、届け、届け、届けとひたすらに叫び続けた。
たとえ己の影が消え去り、魂が燃え尽きようと。
最終話前編です。後編も執筆中ですのでよろしくお願いします!
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「ハイネ。おまえ、家名は何ていうんだ?」
「……えっ」
突然の、全く予想もしなかった質問だった。
私は、振る舞われた飲み物を片手に固まっていた。
「うん?」
私の戸惑いの声は、宴会にはしゃぐ団員たちの話し声にかき消えたらしかった。団長のザック――ザカリアス・デ・アンダは、私と同じ飲み物を持ったまま首をかしげている。
家の名前。名前、家の名前。
これまで出会った人々の顔に思いを巡らせる。私が名前を知る人間はそう多くない――が、私は、何を告げるべきか。言葉という言葉が私の中から消えたような心地だった。
「ハイネ?」ザックが私に言った。
「あ、えっと……その、確か、副団長……と同じだった……ような」
恐る恐る告げると、同じテーブルにいた男が声を上げた。
「俺と?」
顔に傷のある、体格のいい男だ。確か、ザックがウィルフレドと呼んでいた。
「なら、ハイネ・シリルか」ザックが言う。
「家名が同じなら、俺たちどっかで血が繋がってたりしてな!」
ウィルフレドは笑って、私の肩を組む。
私は、酷い眩暈に襲われたのだった。
私は人間ではない。今でこそかつて助けた男の姿をとってはいるが、人間でない私に、血の繋がりなどあるはずもない。それでも、家の名前が同じというだけで――そもそも私の言葉に何の疑いもなく――ウィルフレドは、私との血縁の可能性を語る。体の奥底が震え――連動するように、唇が震えた。なぜだろう。
「馬鹿言え、血の繋がりなんか関係あるかよ!」
それはザックの声だった。
「調査騎士団レグルスは、団員全員が家族みたいなもんだ!」
ザックのかけ声で、食堂に集う団員たちは一斉に飲み物を掲げた。拳を突き上げる者もいた。皆、表情は晴れやかだった。
「レグルスに!」
「レグルスに!」
「新しい家族に」
「乾杯!!」
わけもわからず肉体を得た私は、こうして口からの出まかせでもう一つの名を得た。それを、ヒトは家の名と呼ぶ。あるいは、血の繋がりを示す名と。
得体の知れぬ私をも家族と称する彼らは、本物のそれと錯覚するほどに、ただひたすらにまぶしかった。
このとき私は、己の内に湧き上がったものにすら名を付けることができなかった。
ーーー
【開示】ハイネとウィルフレドの家名が同じ理由
怪異として「名付け」ができないハイネは、ザックに家名を問われた際、とっさに「副団長と同じ」と答えた。きっかけは非常にささいなものだったが、これらの出来事が長らくハイネの心の支えになっていたのは言うまでもない。
影の異形遭遇記録01:記録者ハーミア novel/12358009
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→次回【一色の君よ】 illust/86959560
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お借りしました!(敬称略)
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2020-11-11 11:30:35 +0000