「本当は生きて欲しいと思っていたの」
君は円状のブーケに鼻先を埋め、ぽつりとそう呟いた。
誓いは白無垢で。まっしろな衣装に包まれた君はとても綺麗で。
今はお色直し的な?折角なので色々着てみようという事になった。
漆黒のドレスの君もとても綺麗で、いわゆる新郎に当たる俺は見えないだろうけれど実はとても浮かれている。なのに何故か君はだんだんを元気をなくしていて。
ほんの少し悲しそうな目をしていた。
「だけど、一緒に居たいと願ってしまった」
まるでそれは懺悔のようで。
独りで抱え込むのが辛すぎて、つい零れ落ちてしまった雫のようで。
華奢な体躯、大人になり切る前に時を止めてしまった君は、俺の知る誰よりも優しくて。
独り過ごす時にも耐えられるほどに心が強くて。
だから俺を連れて逝く事に罪悪感を感じるのだろうけれど…
「一ついいかな?」
言葉を遮ってしまうのは申し訳なかったけれど。
このまま君に言葉を紡がせてはならないと、そう判じたので片手をあげてまだ紡ぎ足りないと唇を噛む君の音を断ち切る。
「君は勘違いをしている」
望んだのは自分。
君を知って、形を見て、音を聞いて。
君という存在を知って、もっとその透明な心の底を知りたくなって。
誰ももう入れないと決めた部屋に招いて、生きている人間よりももっと豊かな表情と優しい音に触れて溺れた。
そういえば愛に溺れるって書いて「溺愛(できあい)」って読むんだよね。
とてもとても大好きで、たまらなく愛おしい気持ち。
時にそれが毒になると知っていても、止められないそれは恋というんだ。
「あのね。俺だってそれなりに生きてきた男なわけだ」
そこに居ると知っているのに、理解しているのに、触れられない。
伸ばした指先は空を切り、君の身体を貫いて壁に触れる。
それが、生身の男としてどれだけ辛かったかなんて、幾千万の言葉を尽くしたって君には解り得ない。
男と女の間にはね、細くてふっかい溝があるのよ。
かつて母や妹が溜息混じりに落とした言葉の意味を、未だに理解し尽くしてはいないけれど。
爪の先くらいは理解したかもしれない。
「君に」
触れる。
その柔らかな灰茶の髪に。
なだらかな頬に。
触れて、触れて、口の端が吊り上がる。
「こうして触れたいと、俺がどれだけ願っていたか。望んでいたか」
多分先に惹かれたのは俺の方。
人の醜さに欲深さに、そっぽを向いた世界の美しさを、思い出させてくれたのは君だった。
何かを望めば、何かを失う。それはもうどうしようもない摂理で。
それなら僕の「生」など何ほどの意味があろうか。
「永遠の愛とか絆なんて、在り得ないと俺は今でも思っているよ」
それでも
君の髪に、その手にしたブーケに咲き誇る青い薔薇は、自然界にはありえない色素の花で。
何十人もの園芸家が実現させようとした「見果てぬ夢」の結晶。
その夕暮れの色の花は、現世ではないからこそ望むままに時を止めて咲き誇る。
ああ、まるで君みたいだ。
望むままに、望む時のままに、そこにあって、こうして触れて確かめる事ができる。
これほどの幸福を俺は知らない。
これ以上の幸福を欲しいとは思わない。
「ずーっとずーっと時間をかけて、いつまでもそばにいて、俺にそれが幻ではないと教えて?」
君ならば、君とならばそれができると思うんだ。
本当に、心の底から思うんだ。
「言っておくけど、望んだのは俺の方。あと【大きな魚を釣り上げた】ってほくそ笑んでるのも俺の方だからね」
君が思う程俺は清らかで優しい人間ではないのだよ。
「もう離す気も離れる気もないから」
だから、俺を君のものにして。
ねえ文月。
ずーっとずっと一緒だよ。
◆これ以上無い程に良きご縁をいただきました。
可愛らしく、芯の強いお嫁様。大好きです。
時森 文月様【illust/81788809】
実はちょっとヤンデレ入ってました。(多分そのうち浄化される)
柚木 計馬【illust/81995049】
背景ピクシブフリー素材(リンク任意)お借りしております!
※何かございましたらメッセージよりご連絡下さい。
2020-09-14 13:00:17 +0000