「あんたの顔、見てみたいなあ」
一が、冬夜のその言葉を気にかけるようになったのは、いつからだったろう。
今、冬夜の枕元には一のための服が供えてある。
共に行くのならその中に「縁切り鋏」である糸切狭を。
今世に残るなら、枕の下に糸切狭を。
一は、盆の終わりに冬夜にそう願った。
一は、そっと服を手に取る。
……上着を手に取ると、その下に鋏はあった。
(……そうか)
一は思う。
選んでくれたのだ、と。
「冬夜君、迎えに来たよ」
呟く声は微かに震えていたが、しっかりとしていた。
本当にいいのか、と問う一の迷いを包み込むように、冬夜は言う。
「舞はさ、誰かに捧げるものなんだ。……あんたに捧げても、いいかもね」
その一言が、全てを決めた。
「さあ、行こうか」
吹っ切るように、一が言う。
「どこへ?」
眩しそうに眼を見開き、楽しそうに冬夜が問う。
「どこへでもさ」
森の梢を吹く風の響きと、海の深さを持つ声で、一は応える。
二人の旅路は、まだ始まったばかりだ。
※番様の物語状況によっては編集するかもしれません。
簡単ですが、冥婚成立のご報告とさせて頂きます。
死んだらあなたと繋がれる。(illust/81100539)
2020-08-15 15:00:06 +0000