タイちゃんギンちゃん・本店の厨房にて…。
「……というわけだ、キリン」
「えっ……先生、それは本当ですか……!?」
「ああ……ここまで来たら後には引けないし、躊躇できない……」
「せっ、先生……」
「うちの店でも辛口カレーを取り扱おうと思っている……」
「わ、私の願いが……見事に覆りましたね……」
「申し訳ないけど、このタイちゃんギンちゃん・本店の為なんだ……悪く思わないでほしい……」
「それはまぁ致し方ないかもしれないですけど……でも先生、この店のカレーは中辛がちょうどいいと仰ってましたよね……」
「完全なる私の思い込みにすぎなかった……うちを利用してくれる常連客の一人が“なぜ2号店には辛口あって、本店にはないんだ”的なことを言ってたらしい……」
「そ……そうなんですか……」
「結局はそういった意見がすべてなんだよ……やはり来客の視点で考えるべきだったかな……」
「現状維持なんてしてる余裕ないですよね……」
「試行錯誤の日々はまだまだ終わらないさ……とにかく、新たに追加する辛口カレーで集客を図ってみよう!」
「せ、先生……辛口追加しても、甘口は無くならないですか……?私も食べなきゃなりませんか……??」
「安心しなよキリン……甘口はちゃんと作ってあげるし、君は辛口を食べる必要ないよ」
「ですよね先生!ありがとうございます!!」
「これも“一つの試み”だよ……やってみなくちゃ分からないからね」
「あっ!先生も辛口カレーは食べないつもりですよね……??」
「いや、私は何としてでも克服してみせるよ……」
「先生……さすがですっ……!!」
「自分で作っておいて食べないのはアレだし、何しろ私はこの店の店長だから……少しずつでも克服してみせるさ」
「以前みたいに集客が戻ればいいですね~……味見担当には話してあるんですか?」
「うん、今朝しっかりと話しておいたよ」
「そういえば、キタキツネさんは辛いのは苦手だって聞いたことあるんですが……」
「ああ……それも本人からしっかりと聞いたね」
「あっ、先生も聞きましたよね……となると……」
「……ジャッカル、ちょっといいかい?」
「おお~、辛口カレー作り始めてるんだね!」
「今朝も話したように……辛口カレーはジャッカルに担当してもらうけど、大丈夫かな?」
「うん!ボクはどちらかと言うと辛いのは得意な方だから!まかせてよ!」
「非常に助かるね……改めて、味見担当は二人以上いた方がこういう時に役立つと思ったよ」
「ボクね~、最近辛いもの食べるのに結構ハマってるんだ!美味しいよね!」
「美味しいって言えるのがシンプルにすごいと思うよ……私からしてみたら……」
「ブラックジャガーの方がすごいからね!絶対味覚で辛いの得意、最強だと思ってるよ!」
「彼女ね……見事に店の味を盗まれたからね……」
「キタキツネもいるし、ボク達二人で味見最強タッグになるから!頑張るよ!」
「よし……中辛・甘口はキタキツネ、辛口はジャッカルで今後は頼むよ」
「うん!ところでさ、キタキツネの味見はどう?調子いい?」
「そうだな……経験こそ浅いけど、浅いなりに頑張ってくれてるとは思う……」
「だよね~、ボクもキタキツネとしっかり連携取れてると思ってるよ!」
「しかしキタキツネの味見は独特なのが否めないね……彼女が“磁場を感じるカレーにして”と言ってたけど、未だに謎のままだし……」
「……もしかしたら、そういう事なんじゃないの?」
「えっ……?」
「キタキツネも、“味にパンチを感じさせるものを入れるべき”っていう意味で言ったんだと思う!」
「あ~……そう言われてみれば、納得できなくもないな……」
「ねっ!独特かもしれないけど、ちゃんとした意味があるんだよ!」
「私自身も、どんなコメントにも早急に対応できるようにならないとね……ところでジャッカル、何を食べてるんだい?」
「あっ、これ?トッポギのお菓子!」
「そ、それは辛いのかい……?」
「辛いけど美味しいよ!タイリクオオカミも食べてみて!」
「克服すると言ったし……貰おうかな」
もぐもぐ
「どう?美味しいでしょ?」
「………ゴホッ!ゴホッ!」
「や、やっぱりダメなんだ……タイリクオオカミ……」
「いや、克服すると言ったんだ……まずは辛さに慣れていかなければ……」
「そうだね!ボク達も協力するからね!好きになろう!」
2020-07-20 20:48:48 +0000