ベル田一ブブ助はパトロンの久保銀造を訪ねた
彼女は瀬戸内海にある島に渡りたいという
その島の名前を聞いて銀造はひどく驚いた
「何じゃと?・・・あんた、あの『ゴクモン島』に行きたいと!?・・のう、ブブさん、あんたがあの島とどういう関係があるかは知らんが、あの島にだけは行くのはやめときんさい」
「なぜです?」
「あの島はのぅ、古くは江戸時代から流刑地だったのじゃ、それよりさらに昔は藤原純友の時代には海賊の拠点地であったという、『獄門』などと不吉な名前で呼ばれるのは色々理由があるが、あの島の住民たちは海賊と罪人の子孫なのじゃよ・・・なぜ、そんな島に行きたいと思いなさる?」
ブブは仕方なくその島に行くことになった理由を語った
火星との戦争が終わった時、復員してきた男と船で一緒になった事だった
その男は病気にかかり、亡くなったが、いまわの際に妙な言葉を口走ったのである
「わ、私は・・死にたくない・・・死にたくない!・・こ、こんなところで・・死ぬわけには・・いかないんだ!・・・私が・・・帰らないと・・・三人の・・・妹たちが・・殺される!!・・・お願いだ・・・ベル田一さん・・・これを島の・・三役に・・・頼む・・私の代わりに・・・ゴクモン島へ・・・行って・・・この恐ろしい事を・・・やめさせてくれ・・・!!私のいとこが・・・」
そういうと手紙を託して男はこと切れたのだという
男の名前は『鬼灯(きとう)・まずぅーる太』、出身はゴクモン島とある
「というわけでして・・・何やらのっぴきならぬ事情があると思いまして、吾輩も行かねばならぬと直感したわけであります。銀造さん、そんなにあの島には人を近づけたくないものがあるのでしょうか?」
銀造はしばらく考えていたが、やがて島社会の事について話し始めた
「全てがそうとは言えんがの、島の社会とは、山あいの村もそうじゃが、それとは比べ物にならんくらいに閉鎖的なんじゃ。農村の名主と小作の関係と比べると、網元と漁師の関係はとても深い。ある島でこういう事が起こったそうじゃ・・・『ピアノが盗まれた』と言って被害届を出された警察が調べて、犯人もわかったという時に、急に『あれは実は盗まれたのではなくて、タンスにしまい忘れていただけのことで、なかったことにしてもらいたい』と言ってきたんじゃ・・・警察も被害届がなくては何もできんからのう・・・つまり、被害者と加害者の間で密かに手打ちが行われていたのじゃよ。このように、ある事件が起こっても、それが島の事にとって不利益なことになると島民全員で口裏を合わせるのが掟なんじゃ、つまり、厄介ごとは島民の間では闇に葬られるのが当たり前の世界なんじゃ」
「なるほど、話はよくわかりました、それが吾輩を島に行かせたくない理由なのですね?でしたら、そのお申し出は丁重にお断りしなくてはならぬようです」
銀造はため息をついた
「そういうと思っとったよ・・じゃがのう、ブブさん、あの島だけは『特別』なんじゃ・・・あの島には何やら得体の知れん魑魅魍魎、妖怪、怪物の類に憑かれているんじゃ、わしがあんたなら、金輪際あの島の土は踏みとうはないんじゃがのう・・・」
そう言いながら、銀造はゴクモン島行の切符を手配した
こうして、世にも奇妙な島へと渡ることになったブブ助の運命は・・・?
2020-07-06 04:42:26 +0000