星光石に反響した音と反射した光が大穴の中に降り注ぎ、満ち満ちる。
石から溢れた魔力を、五感全てで感じ取る。肌を伝い、塞がったばかりの右目の外傷がじわりと疼く。
この度の、新大陸を切り開く旅の果ては今立っているこの場所になるだろう。
いくつもの星光石にまつわる土地を歩いてきたが、
今回の旅においてこれ以上のものは、恐らく自分の立場ではもう得られまい。
(どこを見渡しても良質な星光石ばかりだ)
(この大穴の星光石であれば、呪の7つ、8つは解き明かす事ができるか)
(充分な収穫だ)
(……充分な、筈だ。)
(───けれど)
────……旅が始まってまだ間もない頃、興奮の余り己が口走った言葉が心中を去来する。
『本国よりも圧倒的に強い星光石の影響下で暮らす者たちの体質が、
どの程度魔術的に命を浸食されているのかが知りたいんだよ』
『俺が途方もない時間を掛けて調べ上げた研究のその答えを、
ここの星光石と命が持っているかもしれないと思うと、ワクワクする』
『いっそ命を、魂を書き換えるような、存在を塗り替えるような!
魔法の力が在るかもだなんて』
……そう、命を。魂を。
この身を書き換えるようなものが欲しかったのだ。
その位に強い力を求めていた。
長年にわたる研究者としての経験が告げる。
期待よりも足りない。
それが正直な感想だった。
それでも。
思考を現実に引き戻すかのように、背後から旅を共にした者たちが呼ぶ声がする。
初めて見る景色に感嘆を上げる声、俺の速足を咎める声、傷口が開くのを心配する声。
彼らの声を聞き、自然と唇の端が釣り上がる。
そして、改めて眩いばかりに光り輝く大穴を見上げた。
「まあ、いいさ」
「楽しかったからね。」
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最終日に間に合わずそのままお蔵入りになってた絵なんですが、
やっぱり大穴行っておきたくなったので!
■フィーリクス[illust/78968328]
2020-05-31 03:14:13 +0000