大正元年(1912年)8月、新元号の幕開けと共に、名古屋電気鉄道一宮線・犬山線が開業した。尾張北部の人々にとっては待ちに待った鉄道の開通である。
青帯も誇らしく走り始めた4輪単車のその電車は、人々の心をどれほど浮き立たせたのだろう。
それまで名古屋市内に路線を張り巡らせていた名電は、将来への投資として、名古屋北部に広がる平野地帯に郡部線と呼ばれる路線網を築いていった。これらの路線の多くは現在では名古屋本線・犬山線・津島線といった名鉄の主要幹線となり、人々の生活を支えている。
そんな路線の初めての車両が今回取り上げるデシ500形だ。スタイルはまるで明治村のN電をそのまま大きくしたかのようで、乗り心地に配慮したラジアル台車という珍しい足回りだった。開業直後は乗客も少なく、路盤もガタガタで走行中によく集電ポールが外れてしまったとか。それでも尾張の片田舎の人にとっては、大都市名古屋まで連れて行ってくれる頼もしい存在だったに違いない。
後継のボギー車が次々とデビューしたこともあって、デシ500形は戦前の内に姿を消してしまったという。郡部線の始祖鳥とも言うべき存在は、今は写真と昔語りでしか偲ぶことはできない。
2020-02-20 16:22:29 +0000