【PFAOS】黒曜石の奮闘【白銀の遭遇】

あると

さて…と時計屋はちらりと飛び入りの火兎に目を向ける。10分。
サメ、ブル・シャークゴンと呼ばれる生物を切り裂くため、資材の破片の時間を固定してしまい体術のみで戦闘している現状は芳しくない。
あの時に使用してから丁度十分が経過したところだと狂うことのない体内時計が精密な時を刻む。

「オラオラどうした!かかってこいよ!」
「随分とお転婆なようで。十分も持たずに息切れなさらぬようお気をつけて」
「ハッ言われなくてもわかってるっての!そっちこそ無理してんじゃねぇのか?」
「お気遣いありがとうございます。もっとも、こう見えて私武道派なもので」

「……す、すごい」
少し離れたところで二羽のウサギが舞う様を眺めている。黒曜石は蜘蛛のように張り巡らせた意図により敵を切り裂き、紅柱石は蝶のように舞いて剣を振るう。それに気を取られてしまいそうで慌てて二人の傷口に治療を施す。応急的な縫合しかできないが、ないよりはマシだ。

「シロクニ様、二秒後に頭を下げてください」
「へ?」
「オラァ!コイツらには指一本触れさせねぇぞ!」

時計屋の言葉につられて頭を下げると、顔のあった位置にラブティの刃が一閃。はらはらと頭の毛がおちてくるのに思わず冷や汗をかく。それから数秒遅れてドシャッと崩れる音と温かい液体。
門の一族が一太刀の元切り捨てられているところを見るに自分は狙われていたらしいと気づく。

「えっと、ありがとうございます」
「いえ、お気になさらずに。いうことを聞く子は好きですよ」
「おう、ぴったりのタイミングだったぞ!」 
「いや、もしボクが頭を下げなかったらどうなってたのさ……」
「一緒に斬られますね」
「寸止めしてやるよ。多分」
「せめて大丈夫って言って欲しかった!」
「ときにシロクニ様、治療の状況はいかがですか?」
「えっ、あぁ、止血はなんとか……でもちゃんと治療できてるわけじゃないからふたりとも予断を許さない状況ってかんじかな」
「かしこまりました。後片付けは間も無く終わるので、シロクニ様はしばらくお休みください。おつかれさまでした」
「ぼくも支援くらいならできるよ!……このまま何もしないのも悔しいし、手伝わせて」
「ハハッ、いいねぇ!やる気がある奴は嫌いじゃねぇよ」
「いえ、このままここにいてください。貴方は『戦闘では』足手纏いですので」
「……!わ、わかった!」

時計屋の言葉にはっと何かに気づくとノートをパラパラとめくる。

「……シロガネ人、あらゆる生物の守護者……様々な部族がいて、たぶんあいつらは……」

ノートに書き込まれていた仲間の安全のための情報を視線で追いかける。守護者しろがね人その中の一つの部族が危険であるという話を思い出した。

「ーーー【門の一族】西側からやってきた悪魔から神の御子を救い出すという名目で冒険者を襲ってる部族……たぶん、これで間違いない」
「上出来です」
「んなことわかってなんになるんだ?」
「とくに理由はありませんよ?ただの好奇心です。ただまぁ、金属加工のプロのしろがね人ということは能力が高い相手だと場合によっては……」
「時計屋さんのチェーンやラブティさんの刀を変形させられるかもしれない……手のひらに触れさせないように気をつけて!」
「まじか、結構きついな……。まぁ、加工される前に振り抜けばいいだけだけど、な!」
「……やれやれ、厄介な相手とぶつかったものですね」

「ーーと共にあれ」
「不快な音ですね、死んでください」

次の瞬間鎖が蛇のように絡みつき、動きが止まった瞬間に両の手足をラブティが切り捨てる。

「さて、適当なところで切り上げてしまいましょうか。シロクニ様、ラブティ様、撤退の準備を」
「う、うん、わかった!」
「……ところでアンタはこの子たちの仲間なのか?」

【門の一族】との交戦を避けることを決めたとき、シロクニと同様に治療に専念していたマーマン、ザインが細い目を鋭くして時計屋に問う。

「ええ、そうですが何か?」
「あんたの言葉は正論だが、あの子たちの強さはしっかりと認めてやってくれ」
「……お断りします。アレは強さではありません。愚行です。……あのまま助けが来なかったら二人とも死んでいました。……見捨てる勇気がない者は強くなんてございません」
「……… あんた、もしかして」
「私は時計屋、時計が刻むのは今と未来だけです」
「……」

「ず、ずべ……」
「あ、ずべちゃん、動いちゃダメだよ、傷口が開いちゃうから」

「こちらの三名は私たちが責任を持って回収いたします。何処の馬の骨かもわからぬ輩を信用することはできませんので」
「……素直に名乗れって言えないのか?俺はザイン。あんたは……時計屋でいいのか?」
「ええ、そのように名乗りましたが?黒曜石の時計屋と申します。彼らは私の同胞のー」
「ラブティだ、よろしくな!」
「シロクニっていいます!このこはずべちゃんと……火が消えちゃってるけど、野火さん、かな?」
「さて、では撤退致しましょうか」

名乗るだけ名乗らせるとひょいとまだ意識の戻らないヘデラを抱き抱えると、視線で男衆にずべと野火を連れて行くように指示を出す。
その間にラブティは巨大な炎を巻き上げ【門の一族】を牽制し、吹き飛ばすと同時に反対側に駆け出す。

「引くぞ!殿はオレが務める!」
「では撤退と致しましょうか」
「この子は俺が引き受けよう。その小さい子はあんたに頼むよ」
「ありがとうございます。……絶対助けるから…!」

こちら【novel/12364663】【novel/12380220】の展開から

お借りしました
ザインさん【illust/79183148
ラブティさん【illust/79109975
シロクニくん【illust/79422335
ずべちゃん【illust/78954090
野火さん【illust/79149300
ヘデラくん【illust/78985177

時計屋【illust/79335082

#pixiv Fantasia: Age of Starlight#【踏破船団ランドヴェルグ】#【白銀の遭遇】#Age of Starlights#浮遊石の遺跡【赤】

2020-02-16 06:11:31 +0000