何故、何故、何故…
声高に新世界へ踏み出す意思を叫ぶ団員の声が聞こえる。
自信に満ちた意思、希望に満ちた目、不安を振り払う勇気
そしてすべてを引き受け、場を収めた船の長
ただその全てが眩しいと思った。
問答のどれもきっと、彼のヒトならざるものを納得させるものではないのだろう。
そもそも求められている答えも、求められている問答もない。
これはきっと戯れ、久遠の時を過ごす者の転寝の狭間に見る夢のようなもの。
だからまともに取り合うべきものではない。
ただ生き残ることを考えるべきだ。
気に入る答えを、波風を立てない答えを
それでも、皆の声に胸の奥の奥が、掻き毟りたいほどに騒めく
眼球の奥が熱くなる、脳が揺さぶられる。
無邪気に何にでも「何故?」と問うた彼を思い出す。
僕は、答えられなかった
新世界へ踏み出す目的は明確なはずだった。
石なんてついでだ、同族探しなんて嘘だ。
償いじみた時間稼ぎにしかならない旅のはずだった。
あの馬鹿な竜を、彼を知るものが居ない世界へ、彼が望む知らない景色を…
もう分からないのだと笑う古い記憶に今は新たな出会いで重石を付けてしまいたかった。
描かれきったキャンバスを、新たな記憶で塗り潰して塗り潰して
今は新たな絵にしなければならなかった。
全ては僕が選んで、定めて、舵を切った。
もう二度と彼には――――――――。
それなのに、僕の判断ミスでまた危険に晒した。
身勝手な判断と甘い考えに反吐が出る
これならまだあの狭い檻の中で共に終わった方がよかった
あの時と同じだとそう思ってしまった。
僕はあの時からなにも変われていない事実に唖然とする。
無謀に手を引き走った日から変わっていない。
端末から負傷もどきでかすれた声のあいつが、団員と談笑しているのが聞こえる。
もう手をとれるのが僕だけではないと言われている気がする。
あいつはもうあの時とは違うのだと
止まっているのは僕だけだと突きつけられる。
本当に、本当に僕たちはここにいてよかったのだろうか?
どうしてこの新たな世界の先を見ているのだろうか
まだ見ぬ世界が、都合よく僕らを救ってくれるとでも……?
奇跡は二度起きるものではないというのに…
あいつは、彼はいつまで痛みを知らずにいてくれるのだろう。
あの問答に、彼なら何と答えたのだろうか……
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【illust/79358783】関連の展開と【illust/79458108】でダメージ食らったのはこっちの方だったという話。
2P以降はTwitterに乗せた落書きです
鳥(と竜)【illust/79059018】
2020-02-16 05:16:12 +0000