「招待のイケメンが欲しいから、チュートリアルだけやってくれない?」その一言が全ての始まりだった。2013年、あや魂はまだあや百とだけ呼ばれていた。当時は招待コードを入力してゲームを始めると双方に限定カードが貰えるという報酬が存在した。他のゲームアプリのチャットで知り合った友人から、その報酬のキャラが好みだから欲しいということで招待を依頼された。その頃は時間もあったしチュートリアルぐらいと軽い気持ちでゲームを開始した。その頃の僕から見たあや百に対する印象というのは「イマドキの萌え絵ばっかだな、くそ。」だった。元々の好みから美麗イラストとは縁が無かったし、まだソシャゲというのもが世間で流行りだしたばかりの頃だったので「誰がソシャゲなんかにかまけるものか!」と流行り嫌いの僕は否定的だった。同時に始めた友人らがその後もまだ名残でゲームを続けていたのでなんとなく僕も続けていたが、僕が真っ先に飽きてやめるだろうし友人らにもそう言い続けてきた。まともに向き合うつもりはさらさら無いと思っていた。が、ほんの数か月後……節分に合わせて開催されたイベントにて、僕のあや百生活運命の相手「手繋ぎ鬼」が登場する。「妖界節分遊戯譚鬼ごっこ大会」――シナリオは「開催された鬼ごっこの大会に参加し、百鬼夜行の新たな仲間を探す」というシンプルなもので、今でも有名なカードでいえば温羅(ウラ)などが初登場したイベントだ。他作品とのコラボイベントだった為、権利の問題かその後復刻開催されたことは一度もない。このイベントにて同時に初登場した、鬼ごっこを題材として作られた鬼のキャラクター――それこそが「手繋ぎ鬼」「影踏み鬼」「氷鬼」の三鬼だ。イケメンハンターとうたわれた招待コードの友人は、無論「氷鬼」が目当ての報酬だった。報酬のレアリティすらも確認していなかった僕は、変わらずゆるゆるとゲームを進めていたのでイベントの順位もど底辺だった。「ごめん、組合ポイントがこのまま上がると組合報酬の個人ノルマが上がって、けーんさんの氷鬼貰えなくなっちゃう。」そう言われたのを今でも覚えている。僕はイケメンには興味が無いし、このゲームに期待をしていなかったので特に気にしなかった。せいぜいシナリオだけでも読んでおこうと進めていたイベントが後半戦に突入すると、ここで例の三鬼が登場した。影を操り高い意識で大会に挑む影踏み鬼、触れた相手を凍らせてしまうことから他者との交流を拒んでいた氷鬼、そして――手を繋ぎたくても恐れられ逃げられてしまうことで苦悩していた手繋ぎ鬼。各々のセリフは図鑑と大差なかったものの、エピローグでは頭領に魅了され百鬼夜行の仲間となる様子が描写されている。イケメンや美少女といった人気キャラクター達がウリのなか、まさに鬼の形相で登場した手繋ぎ鬼は僕にとって異例だった。今思えば僕の視野が狭かっただけで、実際には当時から既にあや百には多種多様な絵柄やキャラクターが存在していたのだが。鬼の形相で追いかけてくる手繋ぎ鬼、しきりに叫んでいた言葉は「オレと手を繋げ!」。見た目に反した幼げな要求に思わず心を奪われた。それでも僕はまだ頑固で「ソシャゲなんかに」と繰り返した。僕自身に言い聞かせるように。イベントが終わり、個人報酬での氷鬼獲得に手が届かなかった友人は悔しがりながらも他ユーザーと交渉しなんとか氷鬼のカードを集めていた。その友人が要請のお礼にとつづら(現在で言う玉手箱)のカードをどれかくれるというので、好奇心半分に僕は手繋ぎ鬼があるか訊ねた。無論イベントを走りに走っていた友人は手繋ぎを持っていたし、快く譲ってくれた。図鑑に書かれた説明、台詞を読んだ僕はイベントと合わせてその手繋ぎの愛おしさに気付いてしまった。愛に飢え友を求める純真さ、追えば追うほど恐れられ孤独になる苦悩、自らの腕が絡まって自滅する愛おしさ、語るには語り切れないほどの数々の魅力が手繋ぎには詰まっていた。僕はまだ、この手繋ぎのカードを目当てにゲームを続けてみようと思えた。気付けば時は流れ、イベントの順位は変わらず底辺ながらも仲間からは「手繋ぎ推しの人」と認識される程度にはゲームに馴染めていたと思う。手繋ぎ好き同士で繋がった仲間、チャットアプリで繋がった仲間、SNSで繋がった仲間、ゲームを開始した頃の無言で機械的に登録した仲間とは打って変わった親しみのある仲間達と遊べるようにになっていた。一方で、初期の頃の仲間は引退する者もあり、真っ先にやめるはずだった僕はその意に反して古株となっていた。まさか自分が報酬の為に意欲的にイベントに参加するようになるとは、個人イベントを開催するとは、イラストコンテストに参加するとは、当初の僕では考えられないほどにあや百に力をそそぐようになっていた。僕と手繋ぎにとっての転機となったのはこのイラストコンテストで、他のユーザーと合作というかたちではあったものの、その中に手繋ぎ鬼を描いていたおかげで番外編シナリオで再登場することができた!この時ほど、行動することや主張することが大事であること、そして報われる熱意は存在するということを実感したことはない。それでも広告を飾る人気キャラとは違い、復刻の困難なイベント、名前の挙がらないリバイバル投票、その後の再登場やリバイバルは僕が可能性を主張すればするほどに冷ややかな反応をされることもあった。僅かでも再登場に関連するキーワードがあれば拾ったが、そのたびに通り過ぎては笑われた。正直、リバイバル後の姿に文句を付けられる人が羨ましかった!悔しかった!だってリバイバル出来てるのだから!文句を言えるほどに出番があるのだから!!経過する時間に焦る僕の、ただの嫉妬だった。2019年――手繋ぎの初登場からは約6年が経とうとしていた。原点となったチャットアプリのメンバーで結成された組合のログイン履歴はもはや僕一人。既に総大将変更のお知らせが表示されてからも随分経ったが、僕はそのまま去ることも大将になることもなく当時のままだ。どうしてこうなってしまったのだろうと思うことすらあったが、それでも僕は信じていた。待っていた。夢見ていた。そしてついに――6月、SNSをちょうど眺めていた頃に、あや魂公式アカウントからイベントの告知が流れる。そこに、まさに「手繋ぎ鬼」がいるではないか!ジューンブライドの華やかなドレス姿のキャラの中に、陰気で怪しげな金属パーツゴリゴリの鬼が混ざっているではないか!!僕は目を疑った。部屋で一人叫び悶えた。大急ぎでゲームにログインし、告知ページを舐めるように見回してからキラカの準備を始めると、長らく使われてなかった挨拶欄に仲間の名前が。「手繋ぎ見たらお前のこと思い出した」「リバイバルおめでとう」「きっと大騒ぎだろうと思って様子を見に来た」久しい仲間も、アカウントすら変わっていた仲間もこれを期に次々に帰ってきたのだ!夢のような光景に、これこそがまさに手繋ぎ鬼が“繋いでくれたもの”なのだと感激した。かつてないほどの熱量で走るイベントのさなか「いいからお前は走ってろ!」と言われたことがいまだに胸を熱くする。そんな想いを胸に走ったイベントと、手繋ぎリバイバルの感想をここに。時間の都合で今回はここまでだけど温泉イベもいずれ書きたいね。書こう。
2020-02-04 15:24:56 +0000