たった今思い出したのですが、ココ銀座のお話。
夏のある日に、2丁目駅の近くに非常に大勢の人の列ができていましてね。
後で調べましたら、加藤純一美術館なる"ゆ〜ちゅ〜ばあ"という職業の方が、あすこでご自分をテーマにした美術展を開かれたそうで。
インターネットなるものには疎いのですが、大変に影響力のある方なんですね。
"いんふるえんさあ"とも言うらしいですよ。
インフルエンザではありません。
恐らく、ここにおわす皆様が一瞬!頭によぎられたと思いますが。
一瞬、よぎりましたでしょう?
一瞬!
・・・それは置いておいて。
(パンパンッ)
講釈師個人の催し物と言えば、やはり独演会でございます。
銀座ではまだないのですが、浅草や上野では何度か開かせて頂いた事がございます。
寄席とは違い、お客様は自分だけを聴きに来られますので、毎回大変な緊張感に包まれます。
それが時に心地よいなとも思ったりするのですけれども。
パンフレットやポスターが刷り上がって、見せて頂きながら髪が跳ね上がっていないかな?着崩していないかな?などと確認をしましたり。
・・・跳ね上がっていたらそれはそれで面白いな、とか思ったり。
当日までに一つ一つそういった準備を致しまして、上野講釈亭の方で独演会を開きました。
講釈亭、我々芸人の控え室にモニターがありましてね。
あまり大きいヤツではないのですが、それを観ながら客席の空気を我々はいつも感じ取ります。
まくらはどうしようか?若いお客様が多いみたいだから午前中に食べた『うさぎや(上野にある人気カフェ)』のパフェの話でもしようか?などと話す内容を考えたりするんですね。
ちなみに銀座でしたら『ぶどうの木』ですね。
私は講釈師、ただ今皆様に美味しいパフェが食べられる店をお教えしております。
・・・お好み焼き屋の中で。
こちらもデザートにチョコレートパフェがありますから後で頂くとしましょう。
そんな事をアレコレと考えながらあの日も着替えておりましてね。
髪を結い、袴なんかも履きまして。
袴は普段私は履かないのですが、あの日『蜀山人(しょくさんじん)』という話を読むにあたって男性を演じる際に良いかなと考えましてね。
そうして控え室でいそいそ準備をしていた際、モニターの奥が騒がしい。
前座が2人ほど、困りましたと言いながら四苦八苦している姿が写りまして。
辺りをキョロキョロと。
何か問題が起こったようで、後援会のスタッフ達や上野講釈亭の席亭と、わぁわぁお話をしておりました。
幕が開くまでお客様の前には出ない腹積もりだったのですが、これは会を開いた張本人の私が処理をしなければいけないなと思い、袴姿でしたが出ていきました。
前座2人に聞かれましてね。
「馬はどこに停めれば良いでしょうか?」
と。
馬ですよ、馬、お馬さん。
ポルシェやランボルギーニの事ではありませんよ?
馬でいらしたお客様がいまして。
極めて珍しい、馬通勤をされている方が私の独演会にいらしましてね。
サラリーマンの方なのですが、馬への愛が高じて電車通勤をやめて馬で出社されているという物凄い方でした。
馬で上野駅周りを闊歩、馬ですからカッポカッポと信号を渡ってきたわけであります。
しかし私は、プロの講釈師。
想定外の事が起きても、知恵と閃きによって困難を打開しなくてはこの職業は務まりません。
私は以前テレビで得た知識として、馬は道路交通法上、「軽車両」になるという事を把握しておりました!
「駐輪場に案内なさい!」
すぐさま前座にそう言い放ち、ズバッ!と指示をしたので!
その瞬間は大変に"すたいりっしゅ"な講釈師だったと思います!
「あ、そうだな」と、席亭さんが何とも思ってなさそうだった事が私の心にちょっぴりと傷をつけましたが、私はそれでも表情を崩さずに気丈に振る舞い続けました。
騎乗ではありませんよ、気丈ですよ。
ちなみに机上にはどうでも良い事をやたら大袈裟にしてまくしたてている講釈師の私が手を置いております。
もちろん馬を飼っている以上、そのお客様も馬が自転車と同じ軽車両扱いになるという事を知っていたのですが、知らなかった前座が慌てふためいていて、それが大きな騒ぎに発展していたという事でした。
そんなわけでございまして、無事に駐輪場にお馬さんを待機させ、我々はその日独演会をつつがなく務める事ができたのでございます。
(パンパンッ)
さて、大変にまくらが長くなりましたが、
(パンパンッ)
これから皆様の前で一席読ませて頂きます。
(パン!)
そのサラリーマンの方、動物園に遊びに行ってきますと、馬に乗りながら器用に上野西郷像へと続く石段を登っていかれました!
やっぱり物凄い方でしたね。
それがあまりに衝撃的だったため、お名前を伺うのを忘れてしまったのですが、もしかしたらこの人の生まれ変わりだったのかもしれません。
馬れ変わり・・・ちょっと前の紅ー生姜といい、今日の私のダジャレは冴え渡っておりますね。
・・・反応が芳しくないのはご愛嬌。
講釈好きの方にはお馴染み、
『寛永三馬術』(かんえいさんばじゅつ)
というお話でございます。
(パンッ)
まくら 〜了〜
講談『寛永三馬術』に続く。
2020-01-16 15:44:24 +0000