先代:羅季百螺【77906219】20pt
先代開花:甘き眠り 総長オーウェンさん【illust/78022869】
先代開花当代:甘き眠り 総長フィービーさん【illust/78671797】
遠い日の記憶、ろくに父親としての責務を果たさない羅季が俺にぬいぐるみを与えた。その日はよく眠れた。
前総長は気まぐれに俺の頭を撫で、高級そうな菓子を与えた。彼らとの触れ合いでまともなものはそれだけだ。
現総長に至っては顔も名前も知らない。知るつもりもない。
▪️龍御嘉手納(たつみかてな)
26♂ 一人称:俺 貴方、(目上の人に対しては)〜様
▪️素敵なご縁を頂きました。
・ディ・ス・パジア シィネルハヴラさん【illust/78718763】
執着、主従、恋愛、殺害
「頼まれていた情報はこれでいいかい」
「ああ、ありがとう。確認させて貰うよ。…ありがとう、完璧な仕事だ。これは後金だ」
情報屋の男に礼を払い、封筒の中の情報を一文字一文字丁寧に読む。
一目見たときから、この人にお仕えしたいと思った。無茶苦茶に振り回されたい、最期には俺の血を浴びてほしいと思った。
*
「はじめまして。龍御嘉手納と申しますシィネルハヴラ様。護衛に選んで頂き感謝致します。御身に危険が降り注がぬよう務めますので、何卒よろしくお願い致します」
「お仕事お疲れ様ですシィネルハヴラ様。さ、国に戻りましょう。え?付いてくるのかと?貴方は俺を買って下さったのですから、どこまでもお供致しますよ。命令と言われましても、貴方のいる限りどこまでもお供致しますから。便利な丁稚坊主とでも思っておいて下さい」
彼女がこの地に商売で来る事は予め知っていた。傭兵斡旋場に護衛を雇いに来る事も。店主にカネを握らせ、自分を紹介するように仕向ける。この程度の事は甘き眠りで仕込まれた何ともない事だ。
ニッコリ笑って彼女の傍に立つ。どれ程この瞬間を待ち望んだ事かーーー。興奮で気絶しそうだった。
仕事自体はなんて事のないもので終わってしまいそれでは、という所で当然のように付いていく。彼女は拒否したが、最終的に根負けをしたようで同行を許可してくれた。
なんて優しい人だろう。俺がしつこく言えば面倒になって放置されるだろうとは踏んでいたが。
***
「確かに俺は貴方が望む事なら何でもしますと言いましたが檻に入れるなんてひどいですよ主〜!でもちゃんとこうして迎えに来て下さるなんて、やっぱり主はお優しいですね…」
「…ッ、ふふ、痛いですよ。痛覚は死んでませんからね…ッ、…。ふぅ、はあ、痛いですが、貴方がから賜わったものだと思うと、この痛みがずっと続けばいいのに、と思ってしまいます…」
「貴方が望むのならば、喜んで。貴方が俺の事を嫌いでも、俺は貴方をお慕いしております。一目惚れです。どんな役にも立って見せましょう。何がお望みでしょうか?一晩俺を木に吊るしますか?絶食致しましょうか?」
ついていったからといって仕事を与えられる訳ではない。愛想の良さには自信があり、彼女の側近や民からの悩み事や使い走りは何でも受けた。北に荷物を運んでほしいと言われたら(中身が何なのかは、まあ)一っ飛びで向かい、南に害獣が出たと聞けば何匹か仕留め他の獣に対する見せしめに首を木に刺す。
魔術師達が俺の歪な体質に興味を持てば自らの体を差し出す。幸い腕なら数日で生えてくるので利き手でないのなら良い。
そんなこんなで多少の信頼は勝ち取っていたが、相変わらず主は俺に対して不信感を募らせていた。当たり前だ。
無償で全肯定し付き纏う男が傍にいたら俺だってそうなる。何なら毒を盛って始末する。それをしないのがあの方の優しい所だ。
その不快さを誤魔化すように八つ当たりをされるが、何をされても不快さと怒りと、俺がどこまでしたら怒るのかという検分の眼差しがたまらなく可愛らしい。何も興味を持たれないより、怒りを向けられた方が良い。
ずっとこの方の傍にいたい。主が求める物は全部与えたいし、この方の美しいかんばせが曇るのを癒して差し上げたいし、俺の血を浴びてほしい。
***
「はあ、結婚ですか。………主が望むのであれば、俺は謹んでお受け致します」
「主が俺を望んでくださるなんて嬉しいです。これからはネル様、とお呼び致しますね。貴方を第一に考え、貴方の幸福を必ずやお守り致します」
主が気まぐれで俺と結婚すると言い始めた。恐らく俺の反応を伺っているのだろう。何て可愛らしい事をするんだ。気絶してしまいそうになる。
少し考えて、別に夫婦でなくとも傍にいる事はできるが、何かと便利ではあるのでその誘いに乗る事とする。改めて名前で呼ぶのがとても照れ臭かった。
*
「ネル様、紅茶を淹れましたので一息つきませんか、夕方からずっと根を詰めてらっしゃったでしょう。……ふふ、安眠効果の強いハーブティーです。おつかれの体だと眠くなってくるでしょう。さ、明日にしましょう。俺も手伝わせて頂きますから…」
「ご体調が優れませんか?この所冬の雨が続きましたから、御体が冷えてしまったのでしょう。医者を呼びましたので、来るまではお眠り下さいね」
主は変わらず俺を試すような行動はするが、それはそれとして幻覚でなければ甘えて下さる事も多くなった。単純に嬉しい。
御体を崩された時には手が冷たくて気持ちいいからずっと額に手を乗せていた。丸くて、片手で潰してしまえるなと思った。唇で触れてみたら、熱くて、溶けてしまいそうだと思った。早く元気になって、その瞳で俺を見てほしい。
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何となく傍にいる事を許容され始めている。何とか根付いた薔薇を見に来て頂いたり茶を要求されたり、寄っ掛かられたり。背中に腕を回された時は感動で泣いてしまって笑われてしまった。恥ずかしい。
予想していたのとは遥かに違った関係性だが、こうして彼女が、ネル様と甘ったるい時間を過ごすのはそう悪くないと思うようになっていた。
*
それでも俺とネル様がそのまま穏やかな時間を過ごせる訳はなかった。裡に激情を秘めたお方だ、このまま人生を送られていたら、遅かれ早かれどうにかなってしまうだろう。彼女の裡に灯った炎が俺は好きなのだ。
きつく彼女を抱きしめ、短刀を腿の大動脈に突き立てる。小さく喘いだ彼女が俺の腹にナイフを刺す。
あつい、いたい。
彼女の唇に自分の血を塗ると、美しさに堪らなくなり口付けをする。互いの熱を喰らい合うような一時だった。
「ネル様、貴方が俺を認識する前からずっとずっと、貴方のものになりたくて今日まで生きて参りました。貴方とこうして最期を迎える事ができて、ああ、もう、幸せです!愛してる!」
最期に彼女の瞳を見つめ続ける。最期に見るものは世界で一番美しいものがいい。
ゆっくりと瞳から光が失われていく、その光景すら美しかった。
2020-01-03 06:00:26 +0000