企画元:フェシーナの花々【illust/76345084】
◆裁きの谷イメルダール
山脈に隔たれ、黒雲と焼け煤色の樹木に巣食われた小国。
そこに住むのはかつて大陸のそこかしこから追いやられた異端の民の子孫である。
民の性質は警戒心が強く、程度の差こそあれ弱肉強食の思考をする点、
そして激しい雷を守護神として慕うところにある。
四方を多数の国に囲まれており、特に戦国たる大国とは長く防戦を続けていた間柄にある。
(詳細CS参照)
◆雷帝サバキ
名と通称に神の名を冠するイメルダール現王。
隣国に油断の隙を見せぬべく威圧する存在であるさまは蛮族の民からも支持される。
もとよりこの国の長に足る知を先王に仕込まれており、頂から国の彼方を見据えている。
神に焼かれた成れの果てといわれる焼け煤色の羽根は、雷を帯びると色鮮やかに瞬く。
◆所属について
内陸国のため海がないことにのみご留意ください。旅人の方は雷除けをなさるとよいかと思います。
国の設定から大きく逸れなければ、民の種族や獣の要素を持つ持たぬ・程度等ご自由にお考えいただいて大丈夫です。
---
◇開花:素敵なご縁を頂きました!
遠き隣人/雷帝の硝子:
砂上の館 エルゼ・バラド/銀の瞳の者さん【illust/77153298】
「別の地獄でその罪を裁いてやろうか。砂塵も神に焼かれれば石に変わるだろう」
銀の瞳に問いかける王の手に、神の化石がひとつ。
それは歴々と並ぶかどわかしに似れどまるで異なる、さながら友への問答だったと硝子は綴る。
割れずに在る覚悟はおありか司砂殿。いかずちのたもとに根を張る宝石と化せ、と。
――銀の硝子の名を、「ルーグ」と王が呼ぶ。
---
「俺が欲しいものは砂と同じだ。
たとえ獲物がここにあっても掴み取ることができない。この力を込めても掌から逃げていく、そのようなもの」
「抗わずとも生きられる今のうちに、イメルの民は得ねばならない。
変化は皆恐れる。だが、谷に取り残されるままでは、俺たちは怪物(けもの)のままだ。
そうでないと示さねばならない。力だけでは長くはもうおれない。そとは激変することを砂本が言っている。
今すぐでなくともよい。今のままでは得られなくとも、それがなにものか知ればいずれは掴めるものだからな」
「この頭の使い方、手強い獲物を見つけた時の狩りのようだな。大物を見つければはじめに策を練る。
……珍しいか。そんなはずがあるか、俺は昔からそういう性分だぞ」
「その物語のように、日の射す青空を望んだりはしない。それは俺たちの神に反するものだ。
だが……こうして雲のない空を眺め語らう夜も、俺たちには必要なのかもしれん」
吹き飛ばした屋根の下、砂上の夜を眺め語らう日があった。
ほかを嫌う獣の王となににも揺らがぬ砂の民の問答は、
次第に協力者のそれへ、終いには友のそれへと変わっていった。
「やれるものなら持ち帰ってご覧」と差し出された砂本をたずさえ、黒雲を抜け遥か谷へ帰る日々ののち。
遂に雷帝が持ち帰った硝子頁が民の心を掻き立て、翼持つ民がつぎつぎと館へと飛び立ってからの160年、
砂上の館は彼らがそとを知る窓になった。
そうなることまで、果たして王が知っていたか。屹度、そうではなかったはずだ。
・
鷲掴んだ砂本の向こう側を、雷帝の眼が睨んでいた。
相対する銀の瞳の者は涼しい顔で、砂本の向こうの眼光を見ていた。
此れを編んだのは貴殿だと言ったな。そう、語りかけた雷帝の声を、
砂塵の爆ぜる音がかき消し、焼けた砂の塊が手から崩れ落ちていった。
もう、何度目かの来訪であった。
どこに行けども忌まれ恐れられて寄り付くことを許さないイメルの王を、
どの国とも違い、その館だけは平然と迎え入れた。
ただ都合がよかったのだ。だから此処で世の情勢を握ってしまおうと利用した。
だが。ひたすらに受け入れる館の者たちが、てのひらから逃げていく書が、
そして何度来ても変わりなく笑むその銀の瞳の者が、王にはただ異様だった。
それは疑心と呼ぶよりも、恐れだったのかもしれない。
無償の信頼などありはしないと彼らは知っていたからだ。
「問おう司砂殿。俺が此れの王だと言って尚も貴殿はその顔をするか」
銀の瞳の者に運ばせた、あの大国の歴史書が跡形もなく爆ぜたあとに王は問う。
おのれらを異端と形容した頁ごとぼろぼろに砕けた本が砂に還るのには目もくれず、
ただ眼前を睨み続ける雷帝を前に、
銀の瞳は。
---
「あの大国の史書を焼いたことを覚えているか。
猛獣の如く書かれたイメルの民の、その王だと俺が言った時、司砂殿がなんと仰ったか覚えているか」
「イメルダールのこれまでは敗者の歴史ではない。そして俺たちは勝者の歴史も綴らない。
俺たちの本は、ただ今日まで生きた証明だ。過去を知るための術でしかない物に、見栄は要らない。
貴殿の瞳なら、ただの事実も編めるのだろう。
エルゼ・バラドの長。俺たちの生きざまを栄誉も過ちも嘘偽り無く編むことを契られよ」
そこに在るのは鳥が運んだ種を抱えて今芽吹こうとする銀色の砂だった。
雷帝と呼ばれた気高き王もまた、砂の館から司砂を攫った獣となった。
2019-10-14 15:09:14 +0000