・星喰らいの国ユルドゥズ
気の遠くなる程昔に成立した小国。一部ではお伽話の中でのみ存在した国だと思われている。
歴史の表舞台に立つ事は少なく、他国との争いに巻き込まれる事なく平和な歴史を送ってきた。
一年を通して夜が非常に長く、特に冬場は陽を見る事が貴重である。
彼らが今日まで過ごす事が出来たのは、彼らの国には“墜星”が出現するからである。
墜星とはユルドゥズにのみ出現する魔物であり、災害である。
その正体は今日に至るまで判明していないが、討伐した堕星から採取される結晶体は強力な魔力を宿しておりエネルギー源として非常に有用なものである。
また、カットの仕方により美しい輝きを見せる事から宝飾品や武具の素材としても人気がある。
・既知関係
犀華さん【illust/77054956】
たまに訪れた犀華さんのお話を楽しんだり、演舞に胸を弾ませたり。かけがえのない友人です。
■素敵なご縁を頂きました。
霧花の寝台 ノシュト=ニーナ エドナさん【illust/77082820】
同じく山々に囲まれた近隣国であり、幼馴染兼妹のような存在から恋に落ちていきます。
ユルドゥズ出身の女性がノシュト=ニーナに輿入れし、子を成した。
たったそれだけの事であったが、そのえにしが今日まで懇々と続いておりその結果が今目の前にいる小さな彼女ーーー、エドナである。
両国で行なわれている交流会で彼女を紹介された時は、利発そうな子だなと思った。(後にその印象は大きく動かされる事となる)
そして彼女に問われた時、どう返していいのか解らなかった。神官達はよく自分の事を育ててくれたのだが、自分はどうも感情の起伏というものが非常に薄く、辛い事も、おぞましい災害に立ち向かう事も、凪いだ心で淡々と受け止めていた。それ故に恐れられる事もあり、勤めに支障が出る事を面倒に思い他人に親しみやすい「笑顔」を浮かべるのがよい、と学んだのだ。
彼女の朝焼けを示すような美しいひとみが瞬くのを見ながら、曖昧に頷いた。
***
「まあまあ、あんまり堅苦しい事はナシにしようぜエドナ。この後宴会なんだ、今から堅苦しく居たら肩がこっちまって酒がまずくなるよ、どっちのオッサン達もそりゃ望んでないぜ」
ただでさえ頑張りすぎるんだから、と軽口を叩きながら仕事の話へと切り替えていく。
先代と話は出ていたが、彼が倒れ話が止まっていたノシュト=ニーナの花を買い付けるーーー。墜星に対する手段は一つでも多い方がいい。そんなこんなで仕事の話は滞りなく進んでいく。
***
「そりゃ解るよ、俺酒酔わないしね。大人達は大人達で酔って話したい事もあるだろうから、素面の俺がいるのもね」
「完璧な人間なんていないんだ。ちょっと取りこぼした位の方が可愛げがあっていいよ。それにエドナは一人じゃないんだ、周りの人間が幾らでも助けてくれるさ。勿論俺もできる範囲内で手助けするよ。良き隣人として、ね」
よく晴れた空に星が輝く。幾つもの星が輝いてる中で、ひとつ他の星々から離れた場所でひっそりと輝いているのが目に入る。まるでそれが自分のようだと思い、どうしようもない感情を抱く。
隣に立つ彼女の気配を暖かく感じながらも、それに触れていいのだろうかという迷いと不安が頭を占める。酒には全く酔わないタチだったのに、場酔いをしてしまったのだろうか。
***
彼女から恋人のフリをしてほしいーーー、と言われた時まず最初に笑ってしまった。
真面目な彼女から冗談のような言葉が出てくるのが想像もつかず、面白すぎたのだ。
「いやごめんごめん、失礼だった。エドナがこんなお願いするなんてよっぽどの事情なんだろうな…、いいぜいいぜ。やるやる。大丈夫だって!」
「恋人なんざいる訳ないだろ…、いたら話してるし。ま、父さんを安心させる為だ。うまくやろうぜ。エドナ嘘つく時尻尾と耳が動くから気を付けろよ」
彼女が自分を頼ってきた内容に、妙な、顔があつくなるような、心臓の上のほうがカリカリひっかかれたような、不思議な感覚を覚えた。頼られた事が嬉しいという気持ちと、…後はわからない。
*
「あ、病室入る前にちょっと待って。…はい。え?だって今までの距離じゃ今まで通りだろ、恋人なんだから」
「…照れるなって、俺もちょっと恥ずかしいけど、なんともないって顔してないと。恋人なんだろ」
彼女に一歩踏み込んで肩と肩が触れ合いそうな距離まで詰める。神官達の中にも夫婦で仕事に就いている者達もいる。そういう者達は、自分のつがいに対して頗る距離が近い。無意識的なものなのだろう。今は俺もそれに見習わなくては。
(なんかいい匂いするな…)
*
彼女が席を外した際に、彼女の父親がぽつぽつと語り出す。
真相に気付いているのか気付いていないのか、エドナの事をよろしく頼むという。
「はい、…はい。小さい時からエドナの事は見てますから。任せてくださいよ」
嘘ではない。心からの言葉だ。彼女はこれからの生で伴侶を見つけるだろう。人の生と言うものはそういうものだと学んだ。それでも、自分が出来る範囲で彼女に寄り添いたいと思っている。
これは嘘偽りのない感情だ。
***
「さて、仕事の一つもこなした事だし飯にしないか?ほれ。…俺とお前がここで手繋いで歩いておかないと結局俺たちが付き合ってないって噂が父さんの耳に入ったら元の木網だろ。ほら、恥ずかしがらないで」
「…いやー、思った以上にこれは、照れるな…」
彼女の父は耳聡い。なので周囲の人間も「俺とエドナが付き合っている」と誤認しそういう噂を流してもらわないと困る。そう思っての提案ではあったが、なにぶん、これは…。
結局双方照れてしまい、小指と小指をひっかける位しか出来なかった。
*
「ようエドナ、デートしようぜデート。…付き合ってる(フリ)してるんだからしないと不自然だろ!」
仕事を突貫で仕上げ、時間を見つけてはこまめに彼女のもとへ訪れる。我ながらマメな男であると思う。
とは言え、少し眠い。彼女と手を繋いで国境近くの花畑に向かったが、気を張らなくていいせいか少しずつうとうとしはじめる。
目が覚めると、彼女が横で眠っていた。
「無防備に寝ちゃって、まぁ…」
彼女の手に指を絡め、指の先を確認するようになぞる。何時までも、彼女のそばにいたい。醜い、自分勝手な望みが身を支配していく。
***
「へ?恋人のふり、おわりなの?…そうか、お疲れ様、だな」
「じゃあ前みたいに戻らないとだ、な…」
そこまで言って自分の胸がひどくくるしいことに気づく。こんなのははじめてだ。
「えどな、」
「うまく言えないんだけど、俺は…。」
「エドナの隣がいい、ずっと。」
言葉にできない、くるしい。どうしたら彼女に伝わるのか解らないが、必死に想いを言葉にする。
「エドナが笑ってるのを、ずっと見てたいし、泣いてる時は俺が抱き締めるよ」
声が震える。
「俺が心から笑えるのは、君のとなりだけなんだ」
だから君も、俺を隣に置いてくれ。
2019-09-30 15:03:43 +0000