【最命】シュテファン・ベルンシュタイン【王】

山野ナツヲ
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☞企画様【最期の命令を】(illust/76186238

☞シュテファン・ベルンシュタイン(Stephan Bernstein)
82歳/186cm/亜人/男
【一人称】私【二人称】臣下に対して:お前 

☞人間の国を統べる亜人の王。亜人への差別思想が染み着いたこの国で、かつては彼も奴隷だった。偶然にも王と瓜二つ――只それだけの理由で、有事の身代わりとして王家に買われた彼は、王の影として生きてきた。若き王が突然病死する迄は。
 亡き王の側近たちの思惑により、王に仕立て上げられて30年。王の影として身につけさせられた教養を駆使し、懸命な善政を敷いてきた。王としての信頼を得る一方で、一向に老いない彼を訝しむ者たちは着実に増えてゆく。
 不運な奴隷は、今も王を演じている。人間よりも遥かに長く生きるよう定められた己の血によって、奴隷の偽の王なのだと暴かれ、すべてを失う宿命に怯えながら。

☞⚔最期の命令を託す騎士⚔素敵なご縁を頂きました。
テルティウスさん【illust/76899809

「死ぬな、テルティウス」
――それが、王として下せた、最期の命令だった。
つい先ほどまで自らを殺すよう頼っておいて、なんと無様なことか。
結局私は、お前を失うことに耐えられなかったのだ。

まだ幼かったお前が、不安に押し潰されそうな面持ちで私の前に立っていた時のことを、昨日の事のように思い出せる。その小さな胸をなんとか安心させてやりたいと、慣れないながらに言葉を交わしたものだった。
「ちゃんと眠れているか」「この国の食事で合わないものはないか」
「きみはもう私が幸福にしたい国民のうちのひとりなのだから、なんでも言いなさい」

異国の地で安堵の涙を流すお前が、落ち着きを取り戻して子どもらしくはにかむお前が、私の支えにもなっていたと話しても、お前は信じないかもしれないな。

【陛下はいつまでも若々しくて、羨ましい限りですな】
たかが世辞だと、笑い飛ばせた言葉だろうか。少なくとも私には、看過できなかった。人間であるはずの王の年齢と、私の外見が乖離し始めた証ではないのか?
「皮膚が醜く変色する奇病だそうだ。害は無いらしいが、無闇に人の目に触れさせることもない。気遣いは無用だ。…が、仮面姿には慣れてくれ」
私は、偽りの王として嘘の仮面を被ることを選んだ。騎士として励むお前を見かける度、罪悪感が胸を占める。お前は、欺瞞に満ちた私を未だ慕ってくれているというのに。

『貴方様は何者ですか』
その問いを真っ先に突き付けてくるのがお前だとは、何の因果か。私への疑いを知らなかった瞳に、今、戸惑いと疑念が映っている。人間であるお前には、この国で無限の可能性があった筈なのに、なぜ私に仕えたいと願ってくれたのだろう。全てを打ち明ければ、お前は、私という枷から自由になってくれるのだろうか。

「…失望、したのではなかったか。幻滅したのではなかったのか」
全てを知ったお前が選んだ先は、王家に仕える近衛騎士だった。お前は、只私のみが全てなのだと、篤き忠誠を剣に誓う。私は最早、この国の誰もを心の底から信頼することはできぬのだろう。素顔の私に傅くことの出来る、お前以外には。

器に張った水が突如溢れ出すかのように、限界まで膨らんだ私への不信感が爆ぜたのは、突然のことだった。陰鬱な夜空の下、静かな王室に、反乱を知らせるお前の声だけが響く。
「…そうか、遂にこの時が来たか。お前も分かるだろう、私がここに居る事は、間違いなのだ。いつから間違えたのか分からない程、全てが間違いだった。…いっそのこと、せめてお前の手で終わらせてくれないか」
激しい憎しみに殺される運命ならば、せめて、信を置くお前の手で。そう願う私を、お前は非情にも打ち砕く。
『貴方様がどうしても、と“此処”での死を望むのなら…私も共に。共に、参ります』
許さぬ。お前が私と共に逝こうなどと云うことは、許さぬ。
お前の死を許せぬ私にもまた、死は許されなかった。私の手を引き、お前は駆ける。馬の背の上で、横降りの雨に打たれながら、生きるために逃げる。
「死ぬな、テルティウス」
私は、お前を失うことに耐えられないのだ。

逃亡の途は容易くはなかった。名を変え姿を変え、時に襲撃に会い、宿を転々とした。追っ手を撒いたかと安堵しかけた私たちの耳に届いたのは、国の荒廃の報せ。反乱の成功により【悪しき亜人の王】が倒された国では、私に尽くしてくれた有能な臣下たちが排斥され、政治が混乱を極めていた。亜人差別は、私が王位に就く以前の旧態に復し、悪化の一途を辿っている。他国からの【干渉】が宣言され、侵略は目前に迫っていた。
あの国のすべてを愛せはしなかった。心から信じはしなかった。それでも、私は王だったのだ。血を偽り、嘘の仮面を被ろうとも、国民を想う一国の主だった。
「すまない…すまない…」
燃える王宮に、焼かれる臣下の夢を見た。私の肩を貫いたように、剣に貫かれるお前の姿を夢に見た。傷が熱を持つ。灼けるように熱い。
「テルティウス…どこにいる…」
伸ばした手は、空を掴んだ。

遂に逃亡先が見つかることは無かった。否、それよりも早く私の限界が来たと言うべきか。夜な夜な医者を探してくれたお前には悪いが、私は心底安堵しているのだ。私の人生の終わりに、この悪夢が果てることに。
「ようやく、ようやく終わる」
お前が辿り着いたのがあの国でなければ、お前が忠誠を見出したのが私でなければ、お前は今ごろ笑っていたのだろうか。私の宿命に巻き込まれる事なく、穏やかに暮らしていたのだろうか。
「付き合わせて、悪かった」
そう、泣き出しそうな顔をするな。思えば、初めてお前に会った時も、お前はそんな顔をしていたな。20年近く経ったというのに、体はこんなにも大きくなったというのに、おまえは、かわらないなぁ…。
「…がんばったな」
こどもあつかいするのではないから、さいごに、このてをのばすことをゆるしておくれ。
いとしいテルティウスよ。

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2019-09-29 15:45:22 +0000