ロード・エルメロイ二世の邂逅録・カット10

龍実霞・マンガ描く日々。

9日のコミケ96、1日目 西地区“ぬ”19b 雲霞龍で持って行く予定のショートストーリーからの抜粋です。

コピー誌になりそうですが持って行きたいな…

「衛宮君、君の魔術の質はまだ粗い。だが今日の授業で見せた投影魔術は洗練されていた。つまり遠坂嬢の英霊《サーヴァント》だった彼も…?」
「ええ、さらに質も高くて素早く展開していました。」
 そう答えると手を前に出し、呼吸を整えていく士郎。長袖から出ている手の甲に令呪の跡が一画だけ残っている。聖杯戦争で使わなかった令呪があざの状態で残ってしまったのだろうか。
「…!、ちょっとシロウ?」
「いいんだ遠坂、この人たちなら」そして
「トレース・オン」と口にする。
手の周りに光が集まり、みるみる*二振りの短剣*を投影した。どこか現代のものとは異なる、しかししっかりとした質量のある短剣。凜はその短剣をどこか懐かしそうに見つめている。
「その剣は…」
「遠坂の英霊《サーヴァント》が扱っていた獲物を模したものです。ランクは下がりますけど。」
 英霊の扱っていた刀剣を模倣することの意味。そこにいた皆が息をのむ。

「ははっ、これはすごい!」
 使い魔越しに覗いていた橙子も思わず声を上げる。
『傍目からでもわかる仕立ての良い業物だな!しかも二振りも?この少年、この先まだ伸びしろがあるのだろう?今の時点でこれだと今後どうなるかね?』そして引き続き部屋の様子を覗き込んだ。

 士郎は投影したひと振りを刃先を持ち柄を私《2世》の方へ向け、
「どうぞ」と渡してくれた。
 内心の驚きを隠しながら差し出されたひと振りを手に取る。渡された瞬間さらに驚いた。明らかに質量のある刀剣だ。刃先もしっかりとしている。私は渡された刀剣を色々な角度から検分していく。
 講義の時は士郎が持ったままですぐに消えてしまったが、これは明らかに質が良いうえに*この検分の間もまだ消えない*。もう一振りもルヴィアが手に取り周りの者たちと共にチェックを入れ始めた。
「なんですのこれは…」
「いや、講義の時より質が高いよこれ。」
「普通の刃物を強化魔術してもこれだけの仕上げが出来ないよね…?」
「というか一体どんな構造になっているんだ?」
かわるがわる検分していくルヴィア、フラット、スヴィン、カウレス…皆の目つきが輝き、声音にも驚きが現れていく。
 確かにこの面子はグレイ以外は魔術的な素質は圧倒的にあるが、こと投影魔術に関しては彼に敵うものはいないだろう。

 そもそも投影魔術は膨大に魔力を消費する割に持続時間がとても短い術式だ。それこそ瞬く間に消えてしまう。そんな不安定なものを『手渡す』なんて…この少年の投影魔術に関してのレベルは自分が思っていたレベルよりもはるかに高いのかもしれない…そんなことを考えていた間に光が散っていくかのようにして消えていった。

 消えていく短剣を手にしながらルヴィアが士郎の方を振り向いた。
「シェロ、あなたのこの投影魔術…」彼女の声音は明らかに低い。それに士郎は軽い声で応えて
「ん?今日の講義で習っただろう。あの講義の後、再限度が上がったんだよ。」
「あの講義程度で…さわり程度の内容ですよ?その程度でこんなレベルのものは再現できませんわ。」
 さらにルヴィアの声のトーンが下がっていく。明らかに警戒のニュアンスが入っているのが隠し切れない状態だ。そんなルヴィアを見つつも士郎は頭を掻きながら
「いや強化や投影魔術の修業はガキの頃から自己流だけど鍛錬していたんだ。それしか教わらなかったし…それすら聖杯戦争に巻き込まれるまではロクにものになっていなかったしな。」
「ではこれほどの技量になったのは聖杯戦争の時?」
「ああ。殺されかけた…って、何度も致命傷をもらったけどな。」転んだ程度くらいのニュアンスで怖いことを口にした士郎にルヴィアが息をのむ。
「その時のいろいろな出来事がきっかけで、一気にものになったんだ。それでも持続時間はまだ短かったけどね。」
 凜はそんな士郎の様子を半ばげんなりしながら
「口で言ったくらいじゃ納得しない…ってそういうことです。痛い思い…実際初めて聖杯戦争でそれが出来る様になった時、私もその場にいましたけど、その後彼は片腕の感覚がなくなりました。それを私のアーチャーが気づいて、ある程度動かせるよう経路《パス》を通しなおしてくれましたけど。」
「シェロ、聖杯戦争でそんな大変な経験を経てその能力を手に入れたのですね…」
「い、いや、そんな大したことじゃ…」士郎が謙遜しかけたが、凜が言葉をかぶせていく。
「他のマスターたちと戦っている中、初めて投影魔術を成功させたのよこの馬鹿。まぁ私もそのおかげで命拾いをしたのだけれど…死線をくぐり抜けた後、危うく片腕が使えなくなるとこだったのよ…もしも聖杯戦争の修羅場中でそのままだったら、確実に死んでたわ。その上コイツは自分の腕が利きづらい状態を同盟関係の私には全然教えてくれないしね。本当、困ったものよ。」
「ま、まぁその時はそこまで大ごとだと思わなかったんだよ。」
「えぇそうでしょうね、あんたはそういう人だわね。」凛がため息とともに言葉を出す。

「なるほど、君の英霊《アーチャー》がそんな彼の異常に気付いたという訳か。」私の言葉に凛が応える。
「ええ…彼の経路《パス》を繋ぎ直している現場に私はいませんでしたけど、し…衛宮君が後で教えてくれました。彼《アーチャー》も初めて投影魔術が出来た時にしばらく片腕の感覚を無くしていたそうです。」
「なるほど、文字通り『身に覚えがある』というやつだな。」ライネスが言葉を出す。
「従者君が言った『致命傷』は比喩でもなんでもなかったんだね。」
「はい、それこそ死にそうな目にあったって腑に落ちなければ突き進むんですからこの馬鹿は。」そう言いながらもどこか彼を気遣っている。そして士郎に身を寄せると
「あんな風に呼吸を整えているから*あっち*をするかと思ったじゃない!」ごにょごにょ
「そうか?この人たちだとどうせバレちゃうんじゃないかな?ごにょごにょ
「だからって自分から晒すバカはいないわよ!」ごにょごにょ
 その様子をルヴィアがイラつきながら口を挟む。
「ちょっとリン、私のシェロに何ダメ出ししているんですの?」
「いつシロウがアンタのものになった?」くわっと凜がルヴィアに言い返す。そんな凜をスルーして士郎に寄ると
「ねぇシェロ、あなたの魔術の指南を出来るのは凜だけではありませんよ。私たちの中ではありませんか。声をかけてくださればいくらでも協力致しますわよ。」
「こら私を無視するな!」凜を無視してのルヴィアの声には士郎に対する熱も込められている。さすがに士郎もこれは感じ取ったのか
「あ、いや、気持ちはありがたいけど…」と答えに窮してしまう。

今回も文字制限の関係でここまでです。

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2019-08-06 21:58:23 +0000