色とりどりの短冊がしなやかな葉擦れの合間になびいている。天にはどんな絵画よりもたくさんの星が散らされていて、船上の涼風はどこか優しい。
夏の始まりを思い出させるような、深く青い夜だった。
「願いが叶うんだってね」
「貴殿は……」
長い三つ編みの垂れた背中に声をかける。猫背からはほど遠い、凛とした立ち姿は相変わらずだ。
「どうだ、その後は」
もう何度目かの邂逅になることもあって、精悍な中に宿る翠の穏やかさに気づくことは容易い。
それにあてられて、ふわりと自然な笑みがこぼれる。
「思ってたより平気みたい。自分でも不思議なくらい」
本心からの言葉だった。泣いてしまうわけでもなく、沈みきってしまうわけでもなく、わたしはここにいる。
「……あの欠片ね、わたしのものだった」
「……そうか」
「初恋の記憶だったよ」
はつこい。やけに芯のある声での復唱に、口元がまたすこし緩む。
「……初恋は実らないものだって相場が決まってるからね。わたしも例には漏れず。
従軍した理由も、あの隊を抜けた理由も、ここにいる理由も、そこからぜんぶ繋がってた」
あの追憶の後にあったのは、焦がれるような会いたさだけではなかった。青臭いほどの懐旧、締め付けられるような憧憬、なにかが腑に落ちたような感覚、それから、名前を知らない感情たち。
ゆっくりと息を吸う。
目を閉じて息を吐く。
「『恋が形とならない前、そのとき失恋をしとけばよかったのです』」
彼は言葉を遮ることなく、こちらの様子をうかがっている。
「……なんて聞いたことがあったけど……そうだね、叶わない恋は、ちゃんと終わらせておいた方がいい」
再び開いた眼には、濃藍に垂れたミルクのように鮮やかな星々の群れが映った。
「中途半端に生かされた恋は…… 死んだあとにまで引きずっちゃうくらい、どうしようもなくかなしい」
人々の願いが風に揺れている。
「……それでも、」
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第二イベント「あいのほし」【illust/75654150】参加です。
『A Dream Within A Dream』【illust/75610189】で、「記憶の欠片」の中身を思い出した後の話、
『6.memory』【novel/11389167】で頂いた言葉に対するアンサーです。たくさんの感謝を込めて。
ヌエについて:
・忘れていた記憶を取り戻しましたが、思っていたほど落ち込んでいない様子です。
ヴァルディさんありがとうございます……(二回目)
・後悔は恋とは別のところにあるようです。
・七夕には馴染みがありませんでした。
願い事はまだ決めていません。短冊は白色。
・今後:この船に一人きりではないことをぼんやりと想いながら、
(困っているような人/話し相手になれそうな人に声をかける腹積もりで)
船内のどこかを散歩しています。
髪は気まぐれでそのままだったりもとに戻していたり。
エンカウント・モブ・背景等、ご自由に。
他、何かございましたらメッセージ頂ければ幸いです。
・お借りしました・
皆さん描いていてとても楽しかったですほんとうにありがとうございます( ˘ω˘ )
-ヴァルディ・ロレンツさん【illust/74480268】
-成海 百合香さん【illust/74479011】
-???(バトラー)さん【illust/74586663】
-天津 菜知さん【illust/74543553】
-志月幸田くん【illust/75082685】
諳んじていたのは中原中也『恋の後悔』
(リンク先:青空文庫
https://www.aozora.gr.jp/cards/000026/files/55896_66762.html)
の一節でした。
【illust/74519057】
2019-07-22 15:56:04 +0000