まくら②(上野講釈亭にて)

玉本秋人

怒りの原因は「揚げ玉カレンダー」とかいうヤツでございます。口汚いですが、とかいうヤツと今は言わせてくださいね。

6月は梅干しの季節という事でスーパーで
しこたま小梅、それと切らしていたので塩を買おうとしたのでございます。

季節ですから店頭入り口付近にコーナーができてましてね。

しかし、果実酒のコーナーがメインだったためか、塩の袋は同じところに置いておらず、それなら調味料のところだと、私はカゴに梅が一杯入った袋を入れて駆け出し、いえ駆けるのは危ないので、いきなり目当ての梅が手に入った喜びで「駆け出しそうになる衝動を抑えながら」歩いたのでございます。わたくしは講釈師、描写は精緻(せいち)にお伝えします。

塩を目指しておりましたら、ふと「すまほ」の保護フィルムとやら買おうかと思ったのでございます。
以前携帯ショップで、機種変更という難儀な事をしまして、その時透明なシートで、「耐衝撃性」と書かれているやつを見かけて、いたく興味を惹かれました。

いいですよね、耐衝撃性という言葉。安心感の塊ですよと宣伝しているかのようなあの文字。
恐らくは無理だと思うんですが、マシンガンの射撃ですら跳ね返しそうな頼もしさを文字から感じます。

お値段は1000円、わたくしには大枚でございましたが、安心の価格と思えば安く感じるのでございます。

見つけてホクホク顔でカゴに入れ、今度こそ塩を目指した時に、カップ麺の食品棚の脇で「揚げ玉カレンダー」というのを見たのでございます。
方眼紙みたいな、なんだかよくわからない目盛りのような線が書かれた紙、そこにテープで揚げ玉の袋が規則的に上から貼り付いてまして、一個100円だよと、紙のトップに、名前もわからないけったいなキャラクターの絵があってこちらに向かって笑いかけているものですから、「ほほう?」と手を伸ばしたのでございます。

コレが片手では取れない。テープの力、粘着力というものが予想以上に強く、何クソ!と引っ張っても方眼紙のようなものが一緒にひっついてくる。

この時に状況判断を間違えたのがわたくしの不徳の致す所と言いますか、揚げ玉カレンダーを引っ張っている間、よりによって梅の袋が入ったカゴを左手にさげていたのでございます。

下に置けば良いのに、こんな小童ごとき片手で充分だ、そんな驕りがそのときのわたくしにあったのでしょう。

これでも高校では女子野球部のレギュラーでございますから、少し下半身と腰の回転を利かそうと思い、片手の指のうち親指と人差し指で、揚げ玉の袋をつまみ、残りの三本は方眼紙の方へ押し当てまして、よろしいですか?皆さま方。もう少しでオチですからね。

「お前を引き留める親に今生の別れは告げたか?」などと、頭の中で揚げ玉に言葉をかけたりなんかして、

それでクイっと反転しましたところ、
カゴを店員さんの腰にぶつけてしまったのでございます。

謝りました、謝りました。揚げ玉は、方眼紙にくっついたままでした。
失敗った(しくじった)事で頭の中が冷静になりまして、良く考えたら今日は揚げ玉を買いに来たわけではない。
揚げ玉めっ、そんなに方眼紙お母さんと一緒にいたいのか?この甘えん坊さんめ!
無理に引き離すのもなんだかこちらが悪人みたいで・・・とかなんとか、捨て台詞のようなものを呟きながらわたくしは家路に着いたのであります。

保護フィルムの機種を間違えました。

そして、塩を忘れました。

フィルムが大きすぎて、すまほに合わないは塩がないから梅干しが作れない。

さらにホントにないのかと、台所に向かった際に・・・。

足のスネをちゃぶ台にぶつける。コレがトドメでございます。

我を忘れたわたくしは、怒りに任せてゴミの箱にフィルムの空き箱を放り込んで、
「おのれ〜!揚げ玉カレンダー!」と声を上げ、一人途方に暮れたのでございます。

#illustration#original#舞波千景#講釈#講談

2019-06-14 01:41:22 +0000