油断した。
敵軍の苛烈な攻撃魔法に押され後退し始めたタイミングで敵の援軍が退路を塞ぐように現れた。
幸いそれは軽装備の小隊で、重装歩兵で構成されたこちらの小隊を打ち負かす力を持ってはいなかった。
だが足を止められた私達の小隊は背後から迫る敵魔法部隊の射程内に再度入ってしまった。
それでも援軍の敵兵を切り伏せ、飛び交う炎を掻い潜りながら火動砦へと歩を進める。
未だ誰ひとりとして小隊の隊員は欠けてはいない。このまま火動砦の脚部、火焔塔の迎撃範囲まで逃れることができれば・・・!
そう思った次の瞬間、後方から飛来した火炎弾が私の真後ろで炸裂した。
吹き飛ばされ、数瞬意識を失っていた私は他の隊員に手を借りて起き上がる。
まだ頭が揺れているような感覚が抜けない中、素早く周りを見渡し隊員を確認する。
少し離れたところに一人隊員が倒れていた。あれはマティオか。脚をやられたのか、立ち上がることができないようだった。
そしてその後ろ、夕闇と黒煙の隙間から今まさに魔法を唱えている敵兵が見えた。
全身に冷水をかけられたように血の気が引く。そして次の瞬間には隣の隊員の制止を振り切って駆け出していた。
「マティオッ!!」
剣も盾も投げ捨て、咄嗟に名を呼ぶ。
マティオもそれで敵兵に気づいたのか、急いで立ち上がろうとするもやはり脚を怪我しているのか後ずさりすることしかできていない。
間に合え、間に合え!
駆ける、駆けながら私は念じる。
――ピア!!力を貸してくれ!!
ここだ、ここで使わずしていつ使う!
得体の知れない代償を恐れて、使うことを忌避していたその力。
だが、今はそんなことは頭から吹き飛んでいた。
部下を、仲間を失うのは、私の力が及ばないばかりに失うのはもう嫌だ!
――キミの力だ、存分に使うといい。
脳裏に囁くような声が響いて、右手に影のような漆黒がまとわりつく。
それが盾の形を成した瞬間、私はマティオと今まさに地表を高速で這い寄ってくる火炎の間に割り込んでいた。
「――うあぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」
その刺々しく、禍々しい盾を咄嗟に迫り来る炎へ向けると何かが開く音と凄まじい衝撃が私の腕を伝った。
次の瞬間、視界いっぱいに広がっていた火炎が螺旋を描くように盾に向かってきた。
しかし盾は熱される様子もなく、最初の衝撃を除いて何かを防いでいるような感覚がない。
まるで盾が炎を吸い込んでいるような、いや炎だけではない。
足元に転がる石や捨て置かれた武器などの全てが盾に飲み込まれるように消えていく。
そんな光景を数秒見続けて、気づいたときには炎は消え去っていた。
盾をずらして眼前の敵兵を見ると、敵兵も何が起きたのかよくわかっていない様子で呆然としていた。
それも数秒のことで、我に返った敵兵は私の後ろを見やると苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら下がっていった。
後ろを見ると小隊の隊員達のさらに後方から味方の別部隊が駆けてくるのが見えた。
援軍が来てくれた。人知れず安堵の息をついた私は今し方助けた隊員に向き直り――――
言葉が、出なかった。
――こいつは、誰だ?
先ほど確かに名前を呼んだ、はずだ。
しかし私の小隊にこいつは、いた?いや、いないはずだ。
なんだ?知っているはずだ。私は、この隊員を、知っているはず・・・
・・・いや、私はこの兵士を助けたいと願った。そして助けることができた。それは確かだ。今はそれでいい。
だけれど他の隊員の手を借りながらよろめきつつも立ち上がるこの兵士を見て、なぜだが私は取り返しのつかないことをしてしまったんじゃないかと、そんな気持ちを抱いた。
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◆崩星の盾シュヴァルツシルト
不可思議な紋様が這う黒い盾。守る対象を定め、使用者が強く念じることでその能力を使用できる。
発動時は盾前面に全てを吸い込む「黒い穴」が出現し対象をどんな攻撃からも確実に守りきる。
発動後、使用者は守った対象に関する全ての記憶を失う。
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◆既に2、3回使用済みだったり。
◆2枚目が通常、3枚目が展開時、表紙が発動状態となります。
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◆シュヴァルツシルトさん【illust/73054878】
◆夜渡公【illust/73112397】
◆pixivファンタジアLS【illust/72934234】
キャプション随時編集
2019-03-16 19:13:46 +0000