その瞬き一瞬たるや、そこにいるはずもない者がいた。
「このサイギョウ...小生の未熟により遅参致したことを、許し願いたい」
錫杖がシャランと鳴り、吹雪の音が一層強くなる。
「...これより、小生が殿(しんがり)を拝借。...お双方共ずぶ濡れのご様子。同じく濡れた“かのーね”殿を庇いつつ敵と斬り結ぶは困難。このままでは救える者も救えぬ...故に小生に任されよ」
「ま、待ってください。二対一は流石に不利が過ぎます」
声を返したモフィに、カカッとサイギョウは笑った
「何、相手をするだけなら問題はあるまい...それにこれも越えられぬならば、かの樹海の騎士にも劣ろう...出来うるならば、あの首をとってよいな?」
と、不敵に錫杖から抜かれるは仕込まれた大太刀、その刀身は異様な“紅さ”を持っていた。
「紅き...鋼...!?何故そんなものが!」
ヒョウカその鋼の色に聞き覚えがあった。嘗て最剣速の刀使いがいて、しかし手に持った紅き刀により驕り、後の樹海の騎士となった男に倒された剣士の事を。
「如何にも。師より継いだこの刀、紅き鋼を鍛え、強者を斬ってはまた鍛え...数多の血を啜り、紅きより緋きこの刃...銘は村正、名は“飛血之閃”...師も倒し浮かれ切った我が驕りだが、この手合い本気を惜しむ訳にもいくまい」
その場の視界が急に鈍り始め、同時、サイギョウは駆け抜いた...
≪紅き伝承/村正 飛血之閃≫
銘は村正、名は“飛血之閃(ヒケツノヒラメキ)”
とある紅き鋼使いの強者を斬り倒したサイギョウの師がその紅き鋼を用いて、村正と名乗る刀鍛冶に鍛えさせたもの。もとは鞘も鍔もすべて紅かった。
その師の元に剣を極めんとしていたサイギョウが月日を経て真剣勝負で師を斬り、継いだものである。
しかし、サイギョウはそれに驕り、力量を見極めず片っ端から強者に勝負を挑み、斬り倒した。
そんなある日、鍛錬の途中だったアーサーと名乗る男に出会い、彼の秘める物を見通し、勝負を挑んだ。
一振り目は避けられ、二振り目も鞘で払われ、三振り目“飛血之閃”を引き抜こうとした右腕ごと叩き切られた。
サイギョウは己の驕りを恥じ、止めを望んだが、アーサーと名乗る男はいつかの再戦を望んだ。
こうしてサイギョウは修業の地にハイガル山を選び...幾星霜...幾星霜...
サイギョウはアーサーと名乗る男を超えるためにこの戦に臨む...
時系列的にこちら【illust/73483026】の直後らへん割り込み拝借。
登場人物(敬称略)
モフィ【illust/72938850】
ヒョウカ【illust/72942135】
カノーネ(平原ver.)【illust/73313098】
茸の法師サイギョウ【illust/73333915】
2019-03-03 13:26:09 +0000