いつだったか、山奥に棲まう土地神の老龍へ届け物をしたときに
訊いたことがある。 極まった巨躯の者に、業も術も不要。
ただ無造作に歩き、潰し、腕を振るえば戦は終わるものである。
剣の業とは、互いに成り立つ大きさというものがあるのだとー
正誤は置くとしても、その意味で「船持ち」アイニッキの剣技は
まさに正統派と言っていい。己の目方をじゅうぶんに心得えたうえで
エルダーグランの軍勢を、無造作に蹂躙していく。
俺には「巨影殺し」のような業はない。その気になれば龍の頭骨だって
割ることは出来るが、それもあくまで据え物斬りの話。剣筋定まらぬ、
動く相手に決めたことは、ただの一度もありはしない。
ならば鎧を砕き、この炸薬を開いた隙間にねじ込んで破裂させる。
奴が「正統派」なら、懐に入った虫を、はたく術は知るまい。
これで仕留められるかはわからない。奴には爆竹程度にしか、
ならないかもしれない。だが顔面に喰らえば、少なくとも足止めにはなる筈だ。
アイニッキの振るう「船」にとりつき、上から打ち込み、振り落とされ、
またとりつき打ち込む。その繰り返しのなか、3度目でついにヤツの右顔面に
亀裂が走った。的を得たりと感じた瞬間、鋭い弓勢が俺の左肩をえぐる。
「抜かずの剣じゃ、爺さんの首は獲れねえぞ?」
中空に佇むのは魔族の戦士。伸びきった角が、顔面に巻き付いたような風貌を
していた。語るや弓を連ねて撃ち放つ。避けても弾いても、軌道を変えて
向かってくる。弓矢ってのはまっすぐ飛ぶものだろう!
足止めを喰らい、攻めあぐねたとたんに上から巨大な戦斧。
とりついた「船」の舳先、そこに俺と同じ隻腕の戦士。
たまらず一撃を受け、後ろ、いや下に押し出される。
その先には、輪郭すらおぼつかない、大きなアイニッキの頭ー
マヌケめ、功を焦りやがったな!もっけの幸い、このまま落下の勢いに
まかせ、炸薬を背嚢ごと、あの女の頭にねじ込んでやる!
「「「「「「 そうはいかぬぞ野良犬め!!! 」」」」」」
『!!』
振り向いた先に二刀の剣士が6人。伏兵……違う、攻め手の大将を
助けるために駆けつけてきたんだ。巻きあがる瓦礫を足場に。
「「「「「「 正しき刃の名の下に、我ら【剣聖の息子達】!! 」」」」」」
一目でわかる。こいつらは攻め寄せてきたノーザリア兵とは違う。
確固たる業と戦意を持った剣士たち………あの片腕やろう、
功を焦ったんじゃない、追い上げるこいつらを見て、俺を追いこみやがったんだ!
直感で、正面から打ち合えば一瞬で俺がやられるとわかる。だが時間がない。
アイニッキの脚がエルダーグランの本陣へ到達し、歩くたびに攻城兵器が
踏みしだかれ、炎を上げる。その先には……
重力にまかせて落ち、剣士たちとの間合いが詰まるなか、肚を据える。
もういい、勝てぬも斬られるもいい。ただこいつらの陣を突破するだけでいい。
この炸薬を、ヤツにねじこむために!
頼むよ神様、やっと見つけた居場所なんだ。あと1分、いや、半分でもいい。
俺に時間をくれ! 虎口に穴を開ける、ただそれだけの時間を!!
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前回の投稿に、いろいろな方からレスポンス頂いてありがとうございます。
全てお返しできなくて済みませんが、返礼になればうれしくあります。
翔月さま、ふためさま、レスポンスいただいたのにお返しできなくてすみません…
これからの投稿でお返ししたく。
皆さま方のお話に不都合あれば、好きに解釈していただいて構いません。
子畑様ご発案の「バトルウィズラストリゾート」タグ頂きました。素晴らしい思想に感服です。
ボス戦BGMとしては、龍が如く6「with Impatience」をイメージして描きました。
今回はたくさんお借りさせていただきました スハァー(吸
■七つの戦士団
アイニッキ様 illust/73161458
漫画ありがとうございます!ツァーロ様 illust/73306522
ゲッツ様 illust/73186167
■剣聖の息子達 悪乗り台詞すみません
ギーヴリャ様 illust/73296807
ヤト様 illust/73293197
エリーゼ様 illust/73295986
ナハト様 illust/73315702
シエラ様 illust/73320355
アルクティガ様 illust/73337834
黒梯騎士団ベアステイル illust/72939380
半兵衛 illust/72938102
前話 illust/73354419
以上です!
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落ち行く犬を見下ろし、隻腕の戦士が船より嗤う
「ありがとうよき友よ、貴公のその足掻きが、我らのさらなる力となる」
『そこを…! どけええええええ!!!』
ベアステイル本陣まで、あと………
2019-02-26 16:38:00 +0000