(まくらより抜粋)
友達と一緒に帰った小学校時代、帰り道に外国人の牧師さんに会ったことがありましてね。
ペデストリアンデッキ、というんですか。広場と歩道が一緒になったもの。私は途中で曲がって家に帰るんですが、曲がらず歩いて行った先に教会がありましたので、そこの牧師さんだったかと思います。
夕月葵(ゆうづき あおい)さんという、今も一緒に野球に興じたりする人と一緒で、ご存知の方も多いと思いますが、我が芸談協会頭取(とうどり)、海遊亭ほん鮪(かいゆうてい ほんまぐろ)の娘様でございます。
お父様譲りでしょう、芸に対してもとても厳しい人で、時々私の講釈を聞きに最前列に陣取り、後で楽屋で私に、
「思ったより。最後まで寝なかったしな」
と、彼女にとってこれ以上のないお褒めの言葉をかけてくれます。
私も彼女の得意とする、野球の試合に一緒に出る時は
「同点タイムリー、さすがだね。やっぱり自分で打たれた分は取り返さなきゃね」
とエールを送ります。
その葵さん、当時覚えたばかりの英語、いや単語を声に出して面白がってましてね。授業中の男の子達もそうでした。日本語とは違う響きが面白かったのか、意味がわかってなくとも、とにかく英単語の連呼をする。
葵さん、ディクショナリー(dictionary)とパハップス(perhaps)の二つがお気に入りだったみたいで、言ってはニヤリと笑い、時に言ってはアハハと笑い、そんな帰り道、牧師さんに会ってしまったんですね。
自分が発する英語を自在に操る外国人の方を目の前にして、好奇心が止められなかったんでしょう。ディクショナリーとパハップスを交互に叫びながら、牧師に突入する葵さん。恐れおののく牧師さん。イーライ・ロス監督のキャビンフィーバーという作品に、「パンケーキ!(pan cake)」と叫んで噛み付いてくる女の子が出てきますが、知っていらっしゃる方は思い出して頂けたら、当時の葵さんの怖さがわかって頂けると思います。葵さん、あんな珍妙な動きまではしてなかったんですけどね。
調べましたところ、エクソシスト、悪魔祓いはすでに廃止されているとの事なので、現代の牧師さんが怖がるのも無理はないのかなと思います。葵さんも今は悪魔が抜けたかのように、すっかり落ち着いた女性になって、女子野球部のエースとして、練習に試合に頑張っています。
さて本日、皆様にお聞かせしたいのは、悪魔ではなく幽霊のお話。どう違うと申しますと、悪魔は人間ではない異形のもの、それに対し幽霊は元は生きていたものの魂と言われております。
いずれにしても目には見えないものの恐怖、 幽霊の正体見たり枯れ尾花、気の持ちようとは言いますが、目に見えないはずの幽霊は足のないものだと、初めて絵に表したのが江戸時代の画家、円山応挙(まるやま おうきょ)で・・・。(了)
2019-02-23 22:07:11 +0000