図9の説明で述べたように、文明は高度な知性の産物であり、
高度な知性は限りない想像力と欲求として表れると思います。
人間がもつ欲求の無制限化は、
技術が生んだ文明生活に適応する過程で起きたか、
少なくとも促されたのではないかと思います。
遺伝的に組み込まれた本能的な欲求だけでは、
進歩する様々な技術によって拡大し、複雑加速化してゆく、
文明活動を営み続けることができないからです。
ここでは限りない欲求が、3つの文明活動に対して個別的に、
どのような影響を与えるかを示しました。
まず第一に、人間が持つ無制限的な欲求は、
経済・社会活動の原動力になっています。
それは文明活動の本体すなわち全ての人々による、
行政・文化活動も含めた日々の仕事や家庭・地域生活です。
|例《たと》えば新種の家電が社会に普及したら、
次に消費者は、より高い品質や個性を求めたくなる。
そこで図9で述べた想像力が働いて、企業はその需要に応え、
さらなる新型が市場に供給されることになりましょう。
第二に、人間の欲求の無制限性は政策の必要性をもたらします。
経済・社会活動も人々の欲求も複雑多様化していく中で、
その活動を健全に保ち続けるためには、
社会全体の利益のために人々の利害を調整する社会的な意思決定、
すなわち制度・政策が必要になるからです。
新たな技術や製品ができるたびに、
その活用を促し、悪用・誤用や副作用を防ぐため、
技術利用の支援や規制、利益配分などのための政策が求められます。
第三に、『必要は発明の母』ともいわれるように、
人間の欲求は科学研究・技術開発の推進力にもなっています。
科学的な発見は、偶然のきっかけによることも多いですが、
技術の開発・普及には、社会需要が必要です。
また、偶然のきっかけから法則性や需要を見出せるのも、
人間の限りない好奇心や知識欲があるからだと思います。
また、そのような研究や開発は、企業戦略なども含めた、
研究・開発政策を通じて進められることが多いでしょう。
今では科学研究・技術開発が高度化・大規模化し、
社会的影響が大きな場合も増えています。
そのため、研究・開発の社会的な利益や費用、危険について、
政策的な判断と利害調整が必要となるからです。
政策が、ある技術水準の社会において、あれはいいけどこれはだめ、
それはみんなで心がけよう、などと決める一方で、
でももっと色々、あんなことやこんなこともできたらいいよねと、
その限界を克服できるような新技術の開発も促していくというのは、
やはり人間の欲求の無制限性を示していて、興味深いです。
2019-01-13 15:16:39 +0000