日本皇国にて誕生した、世界唯一のV型18気筒エンジン搭載のリムジン。その名は鳳凰。
中島飛行機の子会社として設立された中島自動車によって1937年に開発された国産初の本格的超高級車である。開発にあたりコンセプトは非常に明快で、当時の世界の最高級車であったロールスロイス・ファントムやメルセデスベンツ・グローサーメルセデス、マイバッハ・ツェッペリンなどをすべての点で上回ることが求められた。
このためエンジンはV型16気筒8000㏄4キャブDOHC2バルブで、オプションでルーツ式スーパーチャージャーの装着も可能であった。出力はそれぞれ300ps、300/385psで、二種類併記なのはスーパーチャージャー作動時の数値である。
ミッションは当時としては最先端の5速セミオートマティック、パワーステアリング、集中ドアロック&パワーウインドウ、四輪独立懸架は当然のことながら標準装備。ブレーキはアルフィンドラムでロールスロイスでも採用されていたメカニカルサーボを搭載している。
全てパワーアシストされていることもあり巨大な車体感覚に慣れれば女性でも運転は容易であった。
内装は革張りが標準で、客席を西陣織の絹張りとしたオプションも用意されていたが、当時の高級車の常で様々なオーダーが可能だった。
アルミフレームに搭載するボディは全てコーチビルド方式のフルオーダーメイドであり、タイプは4ドアセダンとカブリオレ、ランドーレット、リムジンもクローズドとオープン、ランドーレットが用意されていたが、フォーマルでの使用が前提であったため2ドアは設定されていない。
最高速度は標準仕様で180㎞/hを超え、スーパーチャージャー仕様なら200㎞/hを超える。
当時世界最速クラスのリムジンでもあった。
イラストの仕様は空軍総司令官である有璃紗姫のために1939年に製作された特別仕様で、リムジン仕様をベースに更にホイールベースを延ばし、補助席2席を加えた9人乗り仕様としている他、エンジンは世界唯一のV型18気筒9000ccDOHC直噴デスモドロミック4バルブにインタークーラー付遠心式スーパーチャージャーを搭載。熱量や各機構への負担が大きいためラジエターの強化や冷却機器の追加が行われている。
ラジエターなどの冷却器は全てアルミから銅に変更、オイルクーラーをツイン化、ステアリングオイルクーラー、ミッションオイルクーラー、デフオイルクーラーが追加された他、放熱フィンが大幅に追加された。
出力は370/480ps。
ミッションは7速セミオートマティックでリアサスは横置きの板バネ支持による新開発オフセット等速ジョイント使用の改良スイングアクスルからダブルウィッシュボーンに変更して四輪ダブルウィッシュボーンに、四輪駆動と四輪操舵を追加しており、四輪駆動は後輪の空転を感知した時のみ前輪に駆動配分を行うトルクスプリット式。エンジン前端のクランクシャフトからハイ/ロー二速ミッションを直結してデフに駆動力を伝える方式である。状況に応じデフロックも可能。
ミッションは普通はエンジン直後に連結されるが、サブエンジンンを途中に置いた関係でリアデフ側に連結するトランスアクスルレイアウトを採用している。このため通常なら前後の重量配分は55:45前後となるところ47:53である。
四輪操舵は必要に応じて断続もできる。
ブレーキは当時最新の四輪ベンチレーティッドディスクを装備。
他には何とハイブリッド機構も搭載しており、前後に搭載されたモーターは発進加速時のアシストを主に必要に応じてモーターのみでの走行も臨機応変に行えるようになっていた。
モーターの出力は前が85ps、後が155psで、エンジンと合せたシステム出力は450/560psとなる。
ハイブリッドシステムも冷却用ブロワ―や冷却フィンなどを設けて過熱を防止している。
特筆すべきはクーラー&ヒーターの搭載で、特にクーラーは国産車では初、世界でも二例目であった。因みに駆動源はサブエンジン式で必要に応じてハイブリッドバッテリーでも稼働する。サブエンジンは前席中央下に搭載されていた。サブエンジンはクーラーのみならず車内電力も賄うが、サブエンジンが故障した場合に備えてメインエンジン直結に切り替えることもできる。
因みにサブエンジンは水冷V型4気筒350ccSOHC2バルブツインキャブで出力は21ps。オイルクーラーも装備していた。負荷の大きいツインクーラーとはいえ十分な出力だろう。
クーラーのみで現代と比べると劣るがクーラー自体家庭用などほぼ皆無だった時代、夏場は特に快適性で隔世の感があった。
燃料タンクはメインが300ℓ、サブが30ℓで、共に後席下にある。これだと残量変化によるハンドリングへの影響が少なく、また追突時なども炎上の危険が少ない。給油口はトランク内左側にそれぞれあり、右側にはハイブリッド充電用プラグがあり、家庭用コンセントからも充電できる。このためトランクにはプライバシーカバー設けられていた。
ボディは中島自動車の子会社である中島車体にて製作され、何と超々ジュラルミンを用い、そして流線型であり、エンジンルーム内に導風板や整流板を設け、サスペンションにも整流カバーなどを取り付け、車体下もアルミ製の整流カバーに被われCd値は現代でも優秀な0.27を記録した。
最高速度は255㎞/hに達し、当時間違いなく世界最速のリムジンであった。
内装は当時最先端のアールデコに黒と白を基調にした馬革、床と天井は西陣織、化粧パネルには漂白した欅の鳥眼杢と磨きだしのアルミパネルを用いた。因みにシートには二枚革を用いている。
ダッシュボードは航空機スタイルで、まさに走る航空機である。ダッシュボードとパーテーションには金時計、更にパーテーションにスピードメーターと温度/湿度計が設けられていた。
車内にはAM/FMラジオは無論、当時最新のレコードプレーヤー、冷蔵庫、カクテルキャビネット、ワインセラー、自動車電話、無線機、暗号変換機などを搭載。他には当時は非常に珍しいアース付コンセントを備えていた他、お姫様ならではの装備として化粧鏡や化粧セット、ドライヤー、アクセサリー収納スペースが設けられていた。カクテルキャビネットにはこのリムジンに合わせてコーディネートされた薩摩切子のグラスとボトルが収められている。
他にはルネ・ラリックのガラスレリーフやステンドグラス、ティファニー調ランプシェードの読書灯など、最高級リムジンに相応しく豪華絢爛に仕立てられていた。
他には他の鳳凰が二本出しマフラーなのに対して四本出しとなっている。
軽量化のためかなりの努力が払われているが、それでも車重は3.7tに達した。とはいえ普通なら4tを悠に超えていただろう。
この18気筒仕様の鳳凰は最終的に24台が製作され、14台がセダン、10台がリムジンで、全てスーパーチャージャー付且つ流線型仕様であった。
ある種のデカダンスを感じさせる、恐らくはもう二度と現れることはない類のクルマと言っていいだろう。
因みに鳳凰は親日国にも多数輸出され、友好国の王室や政府高官などのVIPに愛され活躍した。
2018-12-09 15:18:36 +0000