夜天(やてん)に花火が上がる。
辻講釈(つじこうしゃく)は、講釈師である父も
昔は盛んにやっていて、昼夜問わずに道端で、夏祭りの日も
語っていた。
「やてんの上にまた夜天!中空に八号玉が打ち上がった!」
どうも夜店(よみせ)を「やてん」と読んで、
聴衆に上手い事を言ったと思わせようとしたそうな。
実際、2人くらいは首を縦に振り、後でおひねりを
もらったという…。
「先生!やてんとも言うんですか?」
当時いた弟子が父に聞いた。
「明和9年の大火の時、火事場泥棒が盗んだもののうち、
古来中国よりその名を轟かせし仙人、藍采和(らんさいか)が
天に昇る際に落とした書物にそう記してあったのだ!」
講釈師、弟子に対しても、見てきたような嘘をつき。父のエピソードはこんなものばかりである。
腕と、首の後ろと、くるぶしをかく。
町の打ち上げ花火。真打は八号玉。夜天の高座に、今上がった。
待ってました!とばかりの人々の拍手。腹三分くらいの
ウチの招き猫も、それを見て口角がつり上がったように見える。
しかし、名残惜しいが私達はそろそろ引き上げるとしよう。
虫除けスプレーは、とうに切れている。
2018-09-13 10:44:03 +0000