企画元:BABEL 滅びの書(illust/67116881)
3章『邪神降臨』(illust/69015660)
「ふむ、なるほど。貴様は元の世界を平和に導いたとされる一行の魔術師か」
三角錐の、如何にも邪神らしい立ち振る舞いをするそのモノは、ゆったりと宙で足を組みながら、何かの情報シートを眺める。それ――邪神、エイボンは大勢の異邦人を前にしながらも、完全に油断しきっていた。彼らに隙を見せていたと言うべきか。
「へっ、だったらどうなんだよ」
「いや、どうもならないのだがね? 今ここにいるのは貴様だけか」
「こっちに呼ばれたのがオレ様だけだからな」
大勢の異邦人の中に、当然ながらウィズの姿もあった。しかし、どうにも様子がおかしい。かねてより、邪神討伐を目標にここまで戦ってきた彼だが、今、とても大きい隙を見せている邪神に対して魔法詠唱をすることも、その槍杖を彼の体に突きつけることもしていないのだ。ただ、ただ、ウィズ同様に一つしかない目を忌々しく見ながら、会話をするのみだ。
実は、ウィズは攻撃を仕掛けないのではない。仕掛けられないのだ。まるで金縛りにあっているかのように、身体は固まってしまっている。
「ふむ、では貴様は一人でここまでやってきたのか。なんとも……哀れな男だ」
「ハッ、どうとでも言うがいいさ。こんな金縛りなんかさっさと抜け出して、そのふざけた頭かち割ってやらぁ!!」
ウィズはそう言うと、彼の体内で魔力を練りだす。邪神にもばれないように、少しずつ、少しずつ。しかし、邪神の一つ目はそれを逃しはしない。
「あぁ、そんなこと止めたまえ。――あぁ、この爪か」
邪神は動けないウィズの腕を持つと、中指にある、特別に伸びている長い爪にそっと触れる。さすがのウィズもそれにはあからさまな表情で驚いた。
「な、にがだ」
「うん? これが君の魔力の媒体となっているのだろう? といっても正しくはこの爪に塗られた化粧品だが」
「!?」
それは、この世界の人物――自分以外の者には知られていないはずの情報だった。それを、どうしてこのモノが。神だから? いや、それにしても知りすぎている。先ほどまで封印されていたはずなのに。そんな戸惑いを隠せないウィズに、邪神はにこりと微笑む。
「どうして知っているという顔だな。そうだな……『人間』に教わったのだ」
「ニンゲン?」
「貴様をここに送り込んだものだよ。まぁそれ以上のことを、貴様が知る必要はないがね」
この邪神は一体何を言っているのだろう。邪神は話を続ける。
「ウィズ、異世界の魔術師よ。貴様は貴様の世界の神を倒した。しかしそれはお前だけの力ではない。予定の早い復活で力の戻りきれていない私だが、人一人だけで倒せると思っているのか?
自分勝手で、傲慢な魔術師よ。問おう。今、お前の背中を守るのは誰だ?」
ウィズの体を、一つの影が覆い隠す。それまで全く動けなかった首を動かして、ウィズが頭上で見た物は、高く、大きな人の姿。
待て、待ってくれ。そう言葉を口にすることは、叶わなかった。
「これでよかったか、『人間』よ。安心したまえ。滅亡が始まるその時まで、あの男は生かしてある。私は優しいからな」
時空を超え、画面の前にいる“私”に向かって、邪神は語り掛ける。
「それにしても、あの男を動かしていたのは貴様だと言うに、『人間』というのは、わからないものだ」
この時初めて、神は目の前に倒れ伏す男を少しだけ憐れむ。しかし、“私”は笑う。
「だって、絶望してもらわなきゃ困るもの」
“画面の向こうにいる私”がそう言うと、邪神はまた、にこりと笑った。
<補足>
○邪神様とお話したあと、大きなタイラントさんに玩具にしていただきました。やったね!
○爪がはがれたことにより、ウィズは魔法を扱う術を失くしました。蝶も霧散しました。
○4章中は生きてます。戦場のどっかに転がっています。死ぬかどうかは決めてません。
お借りしました。
公式より邪神エイボン様(illust/67203508)
素材(illust/5397465)
『傲慢で自分勝手な男に、最も屈辱的な絶望を』(illust/67914966)
2018-07-01 13:08:33 +0000