海の神話 Leviathan

いちおか

私は、よく幻想郷を出て海を泳ぎに行くのですが、
あの日、私が見た竜の事は忘れられません。

あれは、私が夏の海中を泳いでいた時のことでした。
私は、海難事故で船幽霊になって以来、ずっと海に住んでいたせいか、
幻想郷に移り住んだ後も、海の事が忘れられない為、今も時々
海を泳ぎに幻想郷の外に出ることがあります。

何せ、幻想郷は山に囲まれているせいで、海がありませんからね。
船幽霊の私からしたら、どうしても海が恋しくなってしまうのです。

海の中は良いものですよ。年がら年中、魚が泳いでいますし、
珊瑚も綺麗だし、海藻も生い茂っていて、色んな面白い生き物がいっぱい住んでいる
楽しい所ですよ。

え?海の中に居て息が出来なくて苦しくないかって?
大丈夫です。だって私、さっきも言ったと思いますが、船幽霊という海の妖怪ですから。
海の中に居たって、全然苦しくないんです。
むしろ、海の中で息が出来ない人間だった頃の私を、不便に思う事さえあります。

おっと、話が少し逸れましたね。
私が、嘗て出会った竜の話に戻しましょう。

私が気ままに海を泳いでいると、
ふと、何か大きなものが近づいているような気配を感じました。
鯨かな?と思っていたのですが、鯨にしてはあまりに大き過ぎると思い、
身を警戒して上に避難したんです。

下を見降ろしてみれば、それは鯨ではありませんでした。
深海のような青黒い岩のような皮膚、奇岩のような背鰭に、大蛇のような長い尾、
鷹のような腕と爪、そして、長い耳と赤い目を持った、鼻づらの長い獣の顔をした、
それはそれは、巨大な生き物が泳いでいました。

私は、その姿を見てこう思いました。
「まるで、竜のような生き物だな」と。
そう、そいつは昔話に出てくるような「竜」そのものと言って良い姿をしていました。
姿形と言い、海の中を空を飛ぶかのように泳ぐ有様は、
正しく、空を翔る竜そのものでした。

そいつは、泳ぐ途中でちらと私を見つめていました。
いや、睨んでいたと言ってもいい視線でした。
まるで、こう言っているような感じでした。
「俺の縄張りに、勝手に入ってくるな」と。
そんな感じで、そいつは私の前から姿を消しました。

そいつが、私の前から消えてもなお、私は忘れられないのです。
その強烈な視線、ともすれば殺意さえこもっていたであろうあの視線を、
私は、今も忘れることが出来ないのです。

後で、白蓮様に聞いたのですが、
そいつは、海の神様だと言うのです。
ある時は、陸に上がり大勢の人を殺すかと思いきや、
またある時は、恐ろしい獣から大勢の人々を守っていると。

その荒ぶる神の事を、外の世界の人間はこう呼んでいるそうです。

「呉爾羅」と。

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2018-07-01 11:19:41 +0000