【ヘタリア】香る梅【学パロ】

いぬら

《ジャッキー・チョウのばかやろう》

「──また間違ったヨ!」

静まり返った放課後の教室に、彼女の声が響いた。さっきからずっと、あの眼鏡黒子の音楽教師みたいに、彼女は俺のミスを指摘してくる。音楽の課題くらい、別にいいじゃん──そう言いたくなる気持ちをぐっと抑え、やり直す、その繰り返し。

「発表はもうすぐなんだから、しっかりしてよネ?」

2人一組で、好きな曲をやる。クラシックでも、ヒップホップでも、ポピュラー、歌謡、インストなんでも可。あの眼鏡にしては、良い課題の出し方だと思う。お陰でこんな時間を過ごせる事になったわけだし……。

「間違わないように見てるから、はやく続けて!」

彼女は眉間にしわを寄せ、楽譜と楽器を交互にみつめる。…つうか、顔、近いんですけど……。
歌に自信のある彼女が選んだのは、いまやアジアを代表するトップアーティストであるジャッキー・チョウの新曲。キーを上げれば女子にも歌いやすい曲だ。我こそはと彼女にピアノ伴奏を申し込んだ奴が居たが、この曲はギターが合うって事で、俺が選ばれたというわけ。留学中にあの眉毛に習っておいて、本当に良かった。色々あったけど、とりあえずそれだけは感謝してます……的な。

「歌のほうは?」
「完璧だヨ!まかせて!!」

続きを弾こうと楽譜に目をやった時、彼女のスマートフォンが鳴った。あいつの名前が画面に表示されたのが見えた。彼女に真っ先にピアノ伴奏を申し込んで、フラれた奴。

「もしもし?いま?ウン、学校で課題曲の練習してるヨ。…えぇ?!ウソー!行きたいナ!……ウン、そしたらあと1回だけ練習したら行くネ!バイバイ」
「あいつ、なんて?」
「公園の横のカフェに居るって。老師(センセ)がパピンス(氷菓子)奢ってくれるから2人も来いって!」
「そっか。」

──4分14秒。
この放課後のひとときのキッカケを作ってくれた眼鏡教師にあの眉毛、普段はウザいときもあるけど、感謝してる。
だがジャッキー・チョウ、俺はあんただけは絶対に許さない。

──4分14秒、ジャッキーの新曲の長さ。
なぜ、もっと尺の長い新曲を作らなかったんだ!!?5分、いや20分の大作だって、あんたなら余裕で作れただろ?

──4分14秒、俺が彼女とこうして居られる残り時間、小さな幸せの寿命。
ジャッキー・チョウのばかやろう。あんたのおかげで、ギターの弾ける俺が選ばれたわけだけど……それとこれとは話が別だ!

「なんか顔が怖いヨ……。パピンス嫌だった?もしかして今日お腹ゆるい?」
「ち、ちがうし。」

アジアの大スターへの恨みを込めて、俺は練習の最後の1回を弾き始める。平静を装って、この心臓の音が、彼女に決して聴こえることの無いように。

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2018-02-04 02:33:44 +0000