【九十九路】泡沫のシードラ【アフター】


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第一期:幽霊艇ウミボウズ【illust/61440023

最古参の一角だった海王の眷属
海賊に捕らえられ蒐集品として差し出されるも、蝶に導かれウミボウズに生還した

だが陸で消費し続けた竜の魔力は枯渇したまま
海に戻れど大海の魔力は足りず、程なくしてウミボウズの中で眠り続けることとなる

やがて幾千の夜明けののち、骸舟は海に還り、眷属は終に滅びの道を覆す

けれど

間に合わなかった眷属も幾らかいたことは、世の人の知るところではない

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◇既知関係:清様【illust/67030053
 《 --- 》:月下の舞台で踊る夜の 音綴られぬ終楽章【novel/9754201

(編集中)



こちらで期間中の投稿は最後となります。
ここまでウミボウズを見守ってくださった方々に心より感謝申し上げます。
とても楽しい一年間でした、本当にありがとうございました!

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「必要ない」と竜は答えた。
「いいえ」と操舵守は否定した。

「皆に宝物を返しているのです。これは、貴方のものなのでしょう?」

差し出した銀の針を、操舵守は譲らなかった。

「必要ない」

再び答えた竜は、もうじき、朽ち果てようとしていた。
深い青の瞳だけがまだ強い意思を持って、眼前の操舵守を睨んでいる。
まだ真新しい真白の竜は、けれど幼さにそぐわぬ意思の固さで、竜の前に立ち続けた。

水滴のような音がした。操舵守が一歩、前に出た。その踵の音だった。

「泡沫の君、貴方はよく頑張りました。もう、いいのです」

生まれたばかりの白鯨が、私の何を知るのだろうか。
還る者への最後の情けか、同情か。どの道関心も聞く気も無かった。
だが違った。

「私は見ていました。私が死んでからの貴方を。
 私は聞きました。貴方が我らの道を捨てる決断を下す声を」

それは、生まれたばかりの白鯨の声ではなかった。

「私が死んだ時、陸の民の手が伸びたあの時。
 憤ってくれたではありませんか。
 私の姿が変わり果てたことを嘆き、過ちを認めたではありませんか」

悠然とした海流を知るものの声が、
けれど確かに、操舵守の口から零れている。

「贈られた針を海王のために託し、けして私利に使わなかったではありませんか。
 永遠の優が隣にあるのを知りながら、けしてそれを選び取らず、
 私の中で、朽ちる苦痛を凌いでいたではありませんか」

あのなきがらの声を、かつての同胞の声を、
物の声を聞く天魚が、代弁する。
彼女の中のウミボウズが、彼女の中の友たる海王が、

私を、ずっと知っていた。

「貴方の選択で星の海王は舵を握り、針を突き立てました。
 針が留めた幻は魂喰らいの魔女を呼び込み、
 その魂で私の骸に傷をつけました。
 颶風の魔女が姉様を、
 ――死神を連れて私に引導を渡せたのは、傷口があった為でしょう」

まるで昨日のことのように、全て、彼女は知っていた。
語るような口はまるで、
それは、それはひどく懐かしい、

「――もう、私には必要ありません。
 貴方のよく知る私(海王)は、大海に還ったのですから。

 泡沫の君、貴方はよく頑張りました。
 もう、もう、いいのです。
 私の為に、命を使わなくてよいのです」

旧き、友たる海王の声が、諭すようだった。

自身の為に生きろと、同胞らに語った魂喰らいの魔女と同じ言葉が、
今度ばかりは、私にも。

「……ねえ、泡沫のシードラ。
 貴方は、自分の別離とちゃんと向き合えましたか?」

白鯨は、しかし一度針を下ろすと、
今度はいつものあどけなさで、そう新たに問うた。
そういえば、操舵守が笑うようになったのは、あの迷子と遭遇した後だろうか。

私には、別離が無い。

そう返すはずの声を、
彼女の身に付けた蝶飾りが、目に止まって、阻んだ。

あの胡蝶は。ああ、私の別離は確か――

「この子が預かった気持ちは、貴方のためのものだから」

だから、貴方が持っていてください。
そう告げると操舵守は針を私の前に置いて、
問いの返答も待たぬまま、次の宝物を抱えその場を離れて行った。
足取り軽やかに、足音を響かせて。

刻針がつま先に転がっている。
いつか叩き落したあの針のまま、朽ちもせず私の隣に在り続ける。

月下の舞台で踊る夜があった。
貴賓箱から逃げ馳せた一夜限りの、
同族も消えもう舞うこともなかった私の
本来偽物である人の手を、同じく仮初めの器たる人の手が、取って踊るただの数刻が。

私の別離の記憶は、針がずっと持ち続けていた。

(あの胡蝶に)

答えを返せていない。
あの夜の別離の気持ちを表す言葉も。

私は未だ、わからぬままだ。




・白鯨の操舵守 ( あるいは「同胞」「旧き友」 ):illust/64049159
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▼泡沫のシードラ
もうじき海に還るもの。
かつて叩き落した刻針を、
何時隣にあってもけして選び取らなかった永遠を、
さいごに手にすると、そのまま心臓に突き立てた。

生き足掻きたいわけではない。
死が怖いのでもない。

ただ、あの夜の問いの答えが、今も見つからなかった。

瞳の青が失せる時、海の藻屑と消え循る。



《 月下美人 》

 [ 一年に一度程しか花を咲かせないことからこう呼ばれている ]
 
 [ ある国の王はこの花をお気に召していたようだ ]

  [ 花言葉は ]

 [ 『 ただもう一度 会いたい 』 ]
                        ――Vepher ( 颶風の魔女の手紙 [ 親愛なる師とアシュテへ ] より一部抜粋 )


・企画元様:九十九路の羅針盤【illust/60865485

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2018-01-31 14:49:58 +0000