「さすがはチェスターズ・ミルで町政委員をされてる方の店だ、中古のバスがすぐに手に入るとは驚きです『ビッグ・ジムが商売すれば、あなたはすべて満足』看板に偽りなしとはこのことですな」
ビッグ・ジムことジェイムズ・レニーは
長身のアジア人の若者に見下ろされるのが気に入らなかったが
それよりも何かが気に入らなかった
細胞分子レベルで
「お役に立てて何よりだよ、ミスター××××・・・?」
「ああ、すみませんね 本名は自動的に伏せる仕組みになっています、ご心配なくライセンスなら持ってます、大型二種といいましてね、あなたの国でのCLASS-Aのライセンスですよ、もっともグリーンカード(永住権)は持ってませんからここでは運転できませんがね」
ビッグジムは免許証に目を落としたが、このアジア人(日本人も含めて、それで一括りで十分だと彼は考えている)の詳細などに興味はなかった
「で?これからどこへ行くのかな?ミスター・・・ブンザブロウ?」
若者は目を細めて笑った
「イエスです、さて、それは風に聞いてください」
「風?」
「そう、新しい世界を吹き込む、または道を開く風です、狭い世界に閉じこもっていたら、脳みそまでコンクリのように固まってしまいますからね」
ビッグ・ジムは頭を振りながら苦笑いした
「君の国のジョークかな?すまない、アメリカでは受けないようだね」
「別に受けるとは思っちゃいませんよ・・・もしかしたら実現するかもしれない世界のことです」
「何を言ってるのやら・・・」
ビッグ・ジムは目を見開いた
チェスターズ・ミルの空に何やら半円形のようなものが浮かんでいるのが見えた
まるで透明なドームのようだった
「何をバカな」ビッグ・ジムはさかんに瞬きをし、動揺を隠すかのように笑った
「さて、もしそうなったら打開策は・・・それはまた風に聞くことですなレニーさん、もっともあなたが耳を貸すという言葉があなたの辞書にあるならですが・・・大きなお世話でしょうが、髭は剃った方がいいですな、まるでベトナムの泥沼にはまり込んだ大統領だ」
そういうと男は頭を下げてバスに乗り込んだ
ビッグ・ジムは頬を真っ赤に染めて、「綿摘み野郎の分際で、人の顔に意見するな!!」と怒鳴りたかったが、ミラーに映った自分の顔を改めて見て、愕然としたのも事実だった
ビッグ・ジムはこの綿摘み・・いや、米食い野郎が、
一刻も早くこの地を去ってくれることのみを祈った
あのクソ忌々しい兵隊あがりのコック
バービーこと、ディル・バーバラと一緒なら、なおよかった
それから数か月後
チェスターズ・ミルはミサイルでも壊せない
謎の透明なドームによって、外の世界から遮断されることとなる・・・
2017-12-31 10:26:15 +0000