こころはずっと、あの大陸に行く前から浮足立っていた。
知らない大陸の、知らない国の、知らない大地に、うまれてはじめて足を下ろす。
まだ支えが無いと立ってもいられないぼくの両足は非力だけれど、それでも確かにほしの息吹を感じていた。
背を支えてくれるひと。ぼくの夫となるひと。ずうっと遠い国の、会ったばかりの王子さま。
なぜだろう、初めて会うのに、彼が支えてくれることに恐怖心は全くなかった。
それどころか、はじめて立ったその瞬間、そばにいたのが彼でよかったと、ぼくはそのき確かに思っていた。
とてもとても素敵な方の元へ嫁入りさせていただきます。ありがとうございます!
☀ コルシュラーグ王国 ベネットさま(illust/65910616)
「はじめまして、王子さま。ぼくはフリューゼ。ハイディゾレの20年だけの王女。きみのもとに嫁いだその日から、ぼくは“元”王女になる。……んだけど、ねえ、これってセーフ? 政略結婚的にはどうなんだろうか」
「今ごろぼくの国じゃ次の王女さがしで大忙しさ。一応ぼくも、もう王女ではないけどそれなりに偉いひとっていう立ち位置は残ってるよ。それに国同士の繋がりはしっかり出来たわけだし」
「……やっぱりまずいかなぁ。もしそうなら秘密にしてくれよ。この国を追い出されてのこのこ帰るのは恥ずかしい」
「おどろいただろう、歩けないのがやってきて。でもすぐに歩けるようになるさ。……ああ、うん、しきたりでね、ぼくのこの両足はまだいちども地面にふれたことがないんだ」
「今日からきみの国に厄介になるわけだけど、普段着はぼくの国のものでもいいかい? 豪華なのは苦手なんだ。……きみとはじめて会ったときの服も、ほんとうはすっごく嫌だったんだ、じつはね」
「わあ、動きやすいな。足が自由っていうのはこんなに気持ちのいいものなのか」
「ほんとうは式を終えるまではだめだけど、もう国は出てしまったし今日から歩く練習をしようと思う。立つのにじょうずなコツはあるかい?」
「この国はまぶしいな。ぼくの国は薄暗かったから、目がなれるまではしょぼしょぼしそうだ。それになんだか肌が痛い気もする。気のせいかな?」
「ちいさいころは王子さまにあこがれていたんだ。こう見えても侍女たちには大人気だったんだよ、ぼく。フリューゼさまはとても格好良くて素敵ですねって。ふふ、いいだろう」
「ベネット! みて! 立てるようになったんだ! これならすぐに歩けるようになるぞ! ジャンプだってできる! ほら!」
「……!? …………おどろいた、ジャンプってむずかしいんだな。お尻がいたい」
「きみは女性みたいにうつくしいのに、ぼくよりうんと力持ちなんだなぁ」
「リゼルクロイドはぼくを産んだひとの姓なんだ。父……国王とぼくに血の繋がりはないからね。過去の王女もみんな姓を持っていた。だから正式に名乗るならフリューゼ・リゼルクロイド・ハイディゾレになるらしいよ。長いから使ったことはないんだけど」
「生みの親に会ったことはないけど、ぼくには血の繋がった両親がふたりと、血の繋がらない父がひとりいる。親がさんにんもいるって贅沢だろう?」
「やあ相棒。今日はどこへ連れていってくれるんだい?」
「手を繋いでくれよ。そうしたらきみと同じ歩幅で歩ける。……わざとゆっくり歩くのはなしでね」
「こういうのをでぇとって言うんだろう? ぼくたちの仲がとっても良いことはみんなに伝わっただろうか。もっと宣伝するべきかな」
さあ、どこへ行こうか。どこまで行こうか。どこへだって行ける。今のぼくには足がある。
人魚がうみを泳ぐのよりもずっと速く、きみの隣まで走っていける両足が。
「あんまりこういうことは恥ずかしいから苦手なんだけど、まあたまにはいいかなって」
「ぼくの婚約者がきみでよかった、ベネット。もしもいま、誰かひとりを選ぶなら、ぼくはきみの手をとるよ」
「だってさ、やっぱり人生の伴侶は気の合うひとじゃないとね。それもとびっきり、この世界でいちばんの!」
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「やあ、ここはずいぶんと騒がしいんだな。ぼくの国じゃお祭りの日でももっと静かだよ」
☪フリューゼ・リゼルクロイド [fluxeh Riselkuroid]
王女(月)/20歳/165cm/女
一人称:ぼく/二人称:きみ、名前呼び捨て
✦ 幼いころからの顔なじみ:エリオットくん(illust/65735886)
「今日も暗い顔かい?そんなんじゃいつまでたっても独り身のままだぞ、エリオット」
☪太陽と月 はじまりのカタチ illust/64996896
CVタグありがとうございます~!ロックさせていただきました!
2017-11-05 12:49:57 +0000