枝の上、一列に並び夜明けを臨む4人のおサルたちは、それぞれに過ぎ行く年を頭の中で振り返っていた。おサルたちに会話はない。それも当然だ。今年最後の年末ライブで大失態をやらかしてしまったからだ。
「6おサルがギターさえ持ってくるの忘れなければ…」
「0おサル、お前だってシンバル以外のドラムセット全部忘れてきたじゃないか!」
「よせよ、もういいじゃないかふたりとも」
そう二人をなだめる1おサルも、しかしながら普段はピンと張っているその1の字しっぽが心なしかふにゃついている。
「もう、済んだことだ」
4人はバンドを組んでいた。年末ライブでは6おサルがギターを忘れ0おサルがシンバル以外のドラムを忘れ2おサルがベースと間違えてマウスを持ってきたため、結果的に本来のバンドの姿とは全く違うものになってしまった。1おサルがアカペラで歌い上げるハードロックのメロディーに、たまに0おサルが思い出したようにシンバルをしばきあげる横で2おサルが狂ったようにマウスをクリックし6おサルがそんなみんなを応援する。そのスタイルはある意味インパクトがあり、すぐにスマホの動画がネットにアップ、拡散され「【カオスすぎて】スタイルが新しすぎなネ申バンド見つけたwwwwwwwww【理解不能】」という煽り文句でまとめサイトに掲載されてしまい対バンのおサルたちからは「まあ、でも逆にパンクっていうか、うん」と明らかに苦しい慰めの言葉をかけられた。
「今年はデビューできると思ったんだけどな…」
0おサルがぽつりと言う。
「それ、確か去年も言ってたよな」
そう返す1おサルに対して、だけど今度は誰もが口を閉ざしたままだ。
うなだれるおサルたち。
「俺たち、もうダメなのかな…」
6おサルのこぼしたその一言は小さかったはずなのに、やたらに鼓膜に響いて聞こえた。
静寂が流れる。
希望の見えない、深い海の底のような時間。
音も光も途絶え、溶けるような暗闇の中、自分自身の形さえおぼろげになってしまいそうな、そんな心もとない気持ちの終わりが見えない時間。
それはおサルたちにはどうすることも出来ない、永遠に止まったまま動き出しそうにない時間だった。
しかしそんな時間がにわか降り注いだ光で動き出す。
ご来光。
山際からのぞく黄金色の初日。そこから振りまかれる眩い光が辺り一面を照らす。それまで暗く沈んでいたおサルたちの顔もいつも以上に赤く染まっている。
「綺麗だなあ」
落ち込みきっていたはずの0おサルが微笑みながらつぶやく。初日の出を見つめるおサルたちは、気づけばみんな穏やかな表情になっている。
「明けない夜はない、か…」
「そうだよな。こんなこともそのうちきっと笑い話になるさ。くよくよしてたって仕方ない。来年こそはデビューしようぜ!」
「おいおい、もう[今年]だろ」
1おサルのツッコミに6おサルが照れる姿を見て一同大笑いする。和やかな初笑い。
「よし、これから景気付けに初詣だ!おみくじ引きにいこうぜ!」
「おう!みんな大吉以外引くんじゃねえぞ!」
「お賽銭入れて願い事もしようぜ!」
「しようしよう!今年は武道館をいっぱいにできますように!」
「うん、さすがに無理っしょ」
1おサルの冷静な意見にさすがにみんなも「うん、無理だな」と落ち着きを取り戻す。
「とりあえず、忘れ物しませんようにくらいが妥当かな」
みんなうんうんと頷く。
「あとマウスと間違えないようにってのもな」
「それお前だけだから」
1おサルの冷静な意見に0おサルと6おサルがうんうんと頷き、2おサルがきょとんとしている。
4人のおサルの新しい年が始まる。
2017-10-21 03:39:46 +0000