テラスでぼんやりと月を眺めていた。
この夜空を、かの人も眺めているのだろうか。
そう思った途端、青い薔薇から光がふんわりと立ち上った。
淡い青い光は、ここにはいない――見知った、少年の姿をとっていた。
目を大きく見開き、まじまじとその幻を見る。
幻光は、魔法のようなものなのだろうか。
ゆらゆらと、青白く光る、陽炎のような姿。
それでも、かの人の姿形、面影は確かにあって。
驚きと共に、小さく笑みを浮かべ、思わずその姿に語りかけていた。
今まで本人には語れなかったことを。
「…想いは口にしたら壊れると思って、迷惑になると思って、
私はずっと黙っていました。
でも、貴方の『言葉は口にして重ねて唱えると言霊になる』を、
カミナの『想いを言の葉で届ける事で叶うもの』という言葉を聞いて、
想いは言の葉にして紡がねばと思うようになりました。
――でも、やっぱり怖いですね。言葉を紡ぐのは。
壊れるものと、叶わぬものと、わかっているからなおさら。
それでも、言わなくちゃいけないと、思うので、言いますね。
…今宵の私も貴方も一夜の夢幻、なら、私の語る言葉も幻になるはず。
だから…『貴方』に伝えます。
…火嶄。いとしいひと。
できることなら、いっしょに、なりたかった。
こんなことを言い出したら、『今』の貴方なら、
困り果てて兄上に泣きついてしまうかもしれませんね。
……貴方が、心を癒し、健やかに成長し、素敵な伴侶と出会い、
気負いなく矛爭を背負えることを、人として短い間ですが、
そのお手伝いが少しでもできれば―――」
絞り出すように言葉を紡ぎ、顔を隠すように深く頭を下げた。
まぼろしが、消え去るまで。
猫の誕生祭【illust/64806982】
ガンライル大公国属武団 矛爭【illust/63983029】
火嶄さん【illust/64811746】
コマクサ【illust/63985776】
2017-10-10 10:48:49 +0000