恒星が煌く静寂の宇宙・・・眼前に佇む緑と水の天体、神埼(かんざき)系第3惑星、優旦(ゆうたん)連邦。
古来より伝わる神埼神話によると、我々の偉大な先祖達が元々住んでいた星を旅立ち、長きに渡る孤独な船旅の果てに見つけたのがこの星なのだという。
最初は赤茶けた不毛の星であったが、卓越した技術で豊かな自然環境に作り変えた・・・ということらしい。所謂テラフォーミングというやつだ。
あまりに突拍子も無い展開で、結局は神話の域を出ないことは確かなのだが、もし事実だとしたら我々は遠い別の星から来たエイリアンだということだろうか。しかし、現状の技術では軌道護衛艦隊や月面基地を作るにも一苦労という段階で、ようやく連邦から接近時約6000万kmの位置にある資源惑星「K4」へ政府や企業が挙って調査団や試験戦闘部隊を送り込み始めているという体たらく、恒星間航行など夢のまた夢だ。それこそSF映画のように凶悪な異星人にでも攻め入られたら成す術もなく壊滅させられてしまうだろう。情けないことに我々は外見を取り繕っているだけで、驚くほど非力なのだ。ご先祖様がたの超技術はいったいどこへ失われてしまったというのか。
ただ、一つだけ言えるのは、大軍事国家として様々な兵器を作り、各軍や企業私設軍隊同士で戦い続けているのは先祖達の勅令のようなものだということだ。国宝として墨の文書が残っているのだ。
私達「神埼族」の戦いは非常に形式的なもので、限りなく実戦に近い演習と言えるだろう。使用する兵装も殺傷力のあるものでは無いし、当然ながら戦闘領域もきっちり決められている。同じ民族同士で戦うのだから、決して殺し合いでは無い。武士の時代から続く伝統なのだ。公式な戦いは政府の許可が無くては行えないし、非公式な戦いは即座に総統閣下お抱えの調停部隊が出動し沈静化が図られる。まあ非公式戦が後を絶たないので、戦争らしい戦争といえばこれくらいかも知れないが・・・
元来、臆病で戦いの苦手な民族だからこそ、小さい牙を研ぎ澄ましておこうということなのだろう。
諸説あるらしいが、先祖達が住んでいた星を離れた理由として、その星の原住民があまりにも凶暴だった為に民族総出で逃げて来たというものがある。その情けなさと目にした悲惨な光景から、身を守る為の技術を磨くことにしたという訳だ。なんとも我々らしい考えではないか。
・・・気が付くともうそろそろ降下ポイントに差し掛かるところであった。私はブースター出力を最大にし、降下体勢に入る。3秒後、母なる星へと静かに吸い込まれていく。
熱圏を突き破り大気圏へ、雲のカーテンをくぐり抜けると、遥か彼方には美しい山脈と長閑な町並みが拡がる。それは時間の止まったような感覚だった。刹那、操縦桿を引き上げて水平飛行へ。景色は良好、束の間の遊覧飛行を楽しんだ。
先祖代々守ってきたこの景色を、絶対に失う訳にはいかない。未来永劫守り抜いていかなくてはならない。
それが、我々に課せられた本能とも言うべき最大の使命なのだ。
改めて胸に刻み込み、一直線に基地へ向かう。地平線の彼方に、朝日が輝いていた。
2017-09-13 14:27:29 +0000