【がんばるフロル】
暴走する船の上は大混乱の様相だった。
操舵を試すルカンが叫ぶ。
「キャプテーーーンッ!やっぱ舵はダメみたいだーーー!」
「いよおおおし!わかったああああ!こうなりゃしかたねぇ!―――マジでどうしよう!?」
「うおおおおおい!なんもねーのかよーーーッ!?あるだろー!?あるよなぁ!?」
「何かあったらサムの野郎首括りなおして沈めるつもりだったんだけどな!!でも陸入っちまったしな…!沈められねぇが……!」
「今からでも首括りなおすか!?代わりの縄ならその辺に腐るほどあるしな!」
それで止まるかは謎だったが、やってみる価値はありそうだ。
しかし―――。
「サムの周り、特に足が多いですよ。下手に手を出したら攻撃されるのでは?」
「冷静だなマオ!…たしかにそれはありそうだ!考えねぇとな!近づきにくいなら…こっからヘッドショットでもかますか!?」
「船長ー!揺れも酷いぜぇ!?狙えるのか?つーかこれ!力弱い奴は振り落とされる勢いだぜ…!?」
そういうのはナーグだった。
何か黒いものを掴んで身体を支えているが、あれは縄だろうか…それとも足だろうか。
「しかもやたらと速いんだよ!この速さだと戦場まですぐだ!」
「それなー!ああ…クソッ!それもヤバイんだよ!マジヤバイ!ああクソ…ッ!なんかこれヤバすぎてちょっとアレだわ!アレ!」
「語彙力が!」
「ヤベーなぁー!あ!そうだ!アレしようぜアレ!」
「わかんねぇよ…!」
ラクレットがツッコむ。
大騒ぎだ。
しかしそれでも全員手が止まっていないのはさすが腕利きという所か。
そこで声をかけたのは、スゥイルだった。
「……まずは落ち着いた方が良いんじゃないかしら?テンション上がってるだけだと思うけれど。舌噛むわよ?」
「あ、ああ!そうだな…!ふー…よっし!順番にやろう!バルカロルの連中も見ているしな!なさけねぇ真似は出来ねぇぜーーーッ!!」
先ほどの大騒ぎで少々手遅れな気もするが……、もともとそういう芸風な気もするので問題はないだろう。
「バルカロルといや、アッシュもいねーみたいだが……まさか落とされてねぇよな!?」
「―――あと危なそうな奴といえば…、そうだ!フロルはどうした!あれから部屋で大人しくしてたよな!もし外に出てたら吹っ飛ばされてるんじゃねーか!?」
「……では僕が見てきますね」
―――復活者・フロルは、復活者であって復活者ではない。
身体は復活者の魔女のものがベースになっているが、精神は『ほぼ完全に』海竜であるフロル・カラルホルンのものだ。
どちらとも取れる存在であり、復活の印で暴走する危険があるが、同時に普通の復活者よりも印の影響が少ない様でもある。
「あれは不意打ちだっただけなの」とは本人談。
不安は残るが抵抗は『一応』できるのだろう。
「フロルさん、また暴走してませんか?」
「乙女の部屋にノック無しで入るとは良い度胸なの…。酷い乗り心地で吐きそうだけどまだ平気なの」
「緊急時なので。平気ならよかった。ではあとどのくらい平気そうですか?」
「えー…わかんないけど、わらわってばチョー強くて可愛いし、しかも可愛いだけじゃなくて恐ろしいから、いくらでも抵抗できると思うの。できるの」
「なるほど無理してますね」
「な…何聞いてたのー!してないのー!」
「いや…わかりやすいんですよね、それ」
フロルの頭には再び角が生えかけていた。
たしかに精神面への影響は少ないが、印の力が強まるにつれて表に出ようとする魔女を抑え込んでいる様な状態らしい。
つまりフロルが魔女に勝っている間は突然暴れだす事はない。
野生的な我の強さと暴走を呼ぶ復讐心が、この点では良い方に影響している。
…しかし反面、身体は復活者のものなので、そちらへの影響を精神力だけで完全に止めるのは難しいようだ。
そしてフロルの場合、巨体故にそれが致命的だった。
「……どんどん戦場が近づいていますから印の力も増すでしょう。辛いと思ったら素直に言ってください」
「わらわってばいつも素直なの。まだ大丈夫。この花の匂い嗅いでたら落ち着くのにも気づいたし、たぶん結構近づいても大丈夫な気もしてるの」
「……その花なんです?」
「名前はしらないの。でも懐かしい匂い」
そう言って地上ではあまり見覚えの無い花を嗅いでいるフロル。
どうやら一応これで印の影響からある程度抵抗する事は出来ているようだ。
その証拠に角以外に普段と変わった所は無い。
「…そうですか。あ、そうだ。今この船は暴走してるわけですが、どうすれば良いと思います?何か案はありませんか。一応聞いておこうかと」
「え、いきなりなの…。えっと…止められないなら誘導してぶつければ良いって思うの。ニンゲンってそういうの得意なの。わらわ知ってるの。何度もやられたから。あとわらわ的にもあのニンゲンと印は邪魔だから、そのためなら手伝ってやっても良いかなって思うの。ありがたく思うの」
「ふうん。なるほど、ありがとうございます。つまり体当たりですね。―――そういえばカラルホルン種って体当たり以外できないんでしたっけ。……でも誘導ってどうすれば良いんでしょうね」
「それは知らないの。というか今凄く馬鹿にされた気がするの!そういう面倒な事を考えるのはニンゲンのお仕事なの!わらわはそういう事しないの!強いし偉いから!真っ直ぐ行ってぶつかれば自分より小さい奴はだいたい死ぬの!攻撃なんてそれで十分なの!それがサイキョーなのー!」
「はいはい、では一応…フロルさんの案も言うだけ言ってみましょうか」
やっぱり馬鹿にしてる気がすると言って暴れるフロルを宥めて、再び甲板に向かう。
後ろからフロルも付いてくる。
きっとこれが最後の戦いだ。
戦いが終わった後、この少女はどうなるのだろう。
それは…誰にも分からない。
■お借りしました。
スゥイルさん&ラクレットさん(illust/64036846)
ルカンさん(illust/64048902)
ナーグさん(illust/64099613)
マオさん(illust/64145620)
・キャプションSSでお借り。
ブラーゴさん(illust/63998894)
アッシュさん(illust/63983804)
―――肝心の借りた所を揺らしすぎた感ありますが、ありがとうございました…!
―――この戦いが終わったら…やりたい事があるフロル(フラグ
2017-09-12 18:34:57 +0000