悔いがあるかと問われれば、特に何もと返す。
思い残す事はあるかと問われれば、何を今さらと笑った。
まだ生きていたかったかと訊かれては、おれはもう懲り懲りだね、と嘯いてみせた。
前期【illust/63490512】
◇幽冥の賢者 ツェルガ
∟─歳(外見年齢二十代)/174cm/男性
∟一人称:おれ/二人称:あんた(きみ)、呼び捨て
∟羅針盤:雷霆
かつてとある国に仕えていた賢者で、屍花の巫子の最後の一人。
物腰や表情は柔らかであるが、どことなく冷めきった青年。
もうその躰も限界に近いようだ。
◇素敵なご縁をいただきました(7/26)
顕夜のルガルさん【illust/63940494】
此処が何処か、など、大して意味も理由も思う事はなかった。
ただひたすらに静かな場所を探した。
例え左側が既に機能という機能を果たす事を失い、何度崩れ落ちそうになっても、それだけを目指して。
そうして気付けば、何もない場所に辿り着いた。
どれくらい歩いたかなど、どうでもいい。
ただ、そこに"彼"がいた。
「…きみ、は」
口を開くのも億劫で、嫌になる。
苦しくは感じない。けれど、躰が鉛のように重いから、以前のように自由に動かせないのが残念で仕方がない。
辛うじて動いている、幾ばくも無い自分の仮初の命の散る間際に、ようやく逢えた存在。
脚の感覚が消え、立つ事も儘ならず膝を付けば、彼は静かに自分の肩に触れた。
最後なのか、と訊ねられた。
最後なんだ、と答えた。
確信したわけではない。曖昧でしかないが、それでも直感的に思ったのだ。
彼はまだ、生きていくのだと。まるでかつての己のようだ。いいや、きっと根本は違うのだろうけれど。
終わりを辿る自分と、始まりを続けていく彼。
その静穏を湛える瞳の中にある感情を読み取る事は出来ない。
出逢ったばかりで、けれど彼を解る前に別れるのだから、当たり前だ。
ああ、だけど。それが何だか口惜しい気持ちもあって。
(本当に、どうしてこんなにも思い通りにいかないのかな)
彼と言葉を交わす事は少ない。きっと、彼自身の性格とも言うべきか、多く語る事は無かった。
今の自分にとっても、そこまで沢山の話を聞かせられるような状態でもなく、
日に日に躰は黒に覆われていった。
ただ死に逝くだけの自分に、それでも彼は側に居続けてくれた。
***
罅割れる音が聴こえる。
視界が鈍り始め、その輪郭を捉えるのも難しくなってきた。
満ち足りているわけではない。けれど、それでも心が凪いでいるのは、
終わる前にやっと誰かに出逢えて、言葉を交わせたから、だろうか。
独りで終わるのだと、少しの諦めを持っていたから。
「おれの、名前を知りたい?…はは、まあ、いいよ。折角の最後だし」
名前が知りたいと言われた。今の今まで、そう訊かれた事など無かったから、驚いた。
最後の最期で、新しい事ばかりが起きる。
それが何だか悔しくて、嬉しくて。
「ツェルガ。ツェルガと、言うんだ。いずれ忘れてしまうかもしれないけれど、」
視界の機能が失われていく。暗闇が自分を迎え入れる。
それでも、恐怖はなかった。
「終わりを見届けてくれるのが、きみで、良かった」
願わくば、もし次が叶うなら、ちゃんときみと話がしたい。
今は時間が足りなすぎるから。
もしもまだ、そこに居てくれるのなら。
今度は沢山の色を引き連れて此処に来よう。
少しでもきみの世界が鮮やかになってくれるのなら、見届けてくれた礼が返せるだろうか。
心配はいらない。
これでも、かつては賢者と呼ばれていた男なのだから。
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◇キャプション随時編集。
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◇九十九路の羅針盤【illust/60865485】
2017-07-25 02:42:16 +0000