【九十九路】べレット【最終期】

やの
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九十九路の羅針盤最終期
参加させていただきます。

◆べレット・フローレンス・アトラプルオム
よろず屋「魔女の一味」を営む夫婦の息子。
現在エルロードという国の入り口近くに3号店「薬樹草館」オープンの準備中。
本店と魔女の扉でつながっており、離れた距離でもすぐに行き来できるようになっている。
開店まで期限があるわけではないので店に置く珍しい植物を探しに行くという目的でよく他国に旅に出ている。

◆母:ジニア・フローレンス【illust/63408943
「ちょ…姉のフリするのやめてほんと!あと勝手にその辺開けないで!!」
◆父:レーオンハルト・アトラプルオム【illust/63413742
「は~父さんの研究資料難しすぎ…。でもいつか、僕も」
「父さん!魔女の扉の繋げ方教えて…!」

*素敵なご縁を結ばせて頂きました!

◆縁雀 : 紬希さん【illust/63671740

「雀…って君?全然鳥じゃない…!」

驚きのために素直すぎる感想を口にしてしまったのは、後から考えれば随分失礼なことだったと思う。
せめて“かわいい女の子だったなんて”までこぼしておけば良かったのに……いや、初対面でそれは軟派過ぎるかな。

ともあれ。

気を悪くした風でもない彼女は僕を客人として迎えてくれた。
ハーブティーを淹れてもらって、問われるまま旅の目的を話した。
店のために珍しい植物を探し歩いてること、ついでにお供が見つかればいいなと思ってたこと。
すると、彼女はこの森ーーー「柏苑」の復興を手伝って欲しいという。

初仕事にしては、随分大きな依頼だ。
……燃えてきた。やってやろうじゃん!
僕はその依頼を二つ返事で請け負った。

「契約成立だね。受けたからには、君の期待に応えられる仕事をするよ!」

それから彼女は柏苑を案内しながら、自分たちのことを話してくれた。
ある国の興亡、故郷を失ってからの長い旅。
大樹に「父さん」と呼びかける彼女の瞳はとても優しくて。
きっとここに辿り着くまで「色々なこと」では片付けられない程たくさんの山を越えてきたんだろう。
依頼の報酬に、と渡されたウィンの大樹の実は鉱石のようで美しく、彼女の「夢」のかけらの輝きだと思った。

僕はついさっき、依頼を受けた時の自分を恥じた。
これは自分のちょっとした野心のためにしていい仕事じゃない。
彼女と、ここに至るまでの人々の思いが詰まったこの場所に手を入れさせてもらうのだ。
彼女が目を逸らしている隙に「よろしくお願いします」のつもりでお父さんに手を合わせた。

数日後。
預かったサンプルから必要なものを考えて用意し、滞在するのに必要なものと、どうやら柏苑からあまり離れられないらしい彼女が面白がりそうなものを詰めて(予想以上の大荷物になった)、僕は再びそこを訪れた。
いよいよ彼女との開拓の日々が始まる。

「この樹は同じ名前でもいくつかの種があって、2種類以上一緒に植えた方が実付きが良くなるんだ。
それからこのハーブは生命力が強いから雑草駆除にも使われるけど多種と交配しやすくて放っておくと香りも何もない別種になっちゃうから注意して。あと土地を痩せさせないためにこれとこれを植えた方が……」

僕は毎日の「仕事」が楽しくて仕方なかった。勿論大変なことも沢山あるけど、今まで書物でしか学べなかったことを実現したり、何よりうっかり喋り倒してしまう僕を面倒がらず真剣に聞いてくれる彼女がいて。
たとえどんな小さなことでも、新しい試みが成功する度飛び跳ねるくらい喜びあって。
専門分野については教えることもあったがそれ以外にもすることは山程あって、道を整えたり人が増えた場合の対応を考えたり、逆に学ぶことの方が多かった。

時を越えた願いを背負い、自分のできるめいっぱいで日々を過ごす彼女を眩しいと思った。
君が望む未来のためなら何でもしたい。
いつの間にか心からそう思っていた。

……ぶつかった手や距離が縮まった笑顔に鼓動か早くなるくらいの邪念は見逃して欲しい。

『今日もお疲れ様』
ある日、柏苑を見渡せる高台で作業後のティータイム。
日が落ちると冷えるので、じんわり温かいミルクティーが身に染みる。
徐々に成長している眼下の景色と…
彼女の横顔が昼と夜の狭間の色になってキレイだな、なんて。
ぼんやり眺めていたところで彼女が話しはじめた。
「雀」について。

それは悲劇から始まって、厳しい道を歩み、でも決して悲しみだけで終わらせなかった「彼女たち」の物語だった。
僕は意識しないうちに居住まいを正していたが、彼女は気にしないでと言う。

そうだね。君は君だもの。
積み重ねた過去が君を生んだとしても、君が過ごした時間は君のもの。
かつての国を再興しようという夢だって、君自身が選んだもの。
そんな君だから、僕は、

『君の夢は何?』『ありがとう、一緒にいてくれて』『僕に名前をくれるのが君だったら、…』

「待って!」

「そこから先は僕に言わせて」

……焦ってストップをかけたけど、ちょっと間に合わなかったかも。
でも彼女もなんだかいっぱいいっぱいみたいで、うん、だからセーフ。きっとセーフだ。

「お礼を言うのは僕の方だ。
ずっと漠然と“いつか何かを成し遂げたい”って思ってたけど、僕は子供だった。ここに来てやっと自分の力で生きていくってことがどんなことなのか分かってきた気がするんだ。
…僕の夢が何かって聞いたよね。
僕の夢は、世界中の夢の卵を現実に飛びたたせること!
君みたいに頑張る人の助けになりたい。
準備中の店を開けて、少しずつ大きくして、支店を増やして、いつか知らない人がいないような大企業にする!」

「ふ。あはっ。壮大だろ?1人じゃ到底無理だよね。だからねえ、君に手伝って欲しい。共に歩いて、悲しいことがあったらなぐさめて、折れそうになったら激励を」

「ずっと想像してたんだ。もし君を縁雀って通称じゃなくて、名前で呼べるならどんなのがいいかなって。
ゆっくりと陽が昇るように世界と出会いを重ねてたくさんの縁を結び、瑠璃色の空のように果てなく広がる可能性を得て。
暖かな春みたいにたくさんの希望の芽を抱え、紅葉と実りの季節を待ち、きっと何度でも冬を越えて未来をつむぐ、そんな君の名前を」

「紬希(つむぎ)って名前を、送らせてくれないか」

「君に恋をしたから。君が、好きだから。この名前を受け取って、僕を君の……唯一に、してほしい」

僕の必死さは、きっと夜の帳も覆い切れてない。
でも、苦しくなるほどギュッと抱きしめあえる瞬間はきっともうすぐ。

……………………たぶん。

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2017-07-15 05:43:01 +0000