【九十九路】ソクラテス【最終期】

空閑
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「うん?何だ、此処には何もないぞ。俺か、俺は-何の変哲もない、哲学と物語が好きな男だよ」

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 九十九路の羅針盤¦illust/60865485

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 ◇ソクラテス・コールバーグ
 ◇??歳¦男性¦174cm¦雷霆
 ◇一人称¦俺、二人称¦お前

◇海の果てにひっそりとある小国の跡地に一人存在している青年。
 何をするでもなく、廃墟で椅子に座して普通に生活するように其処にいる。
 ボロボロの本を集めては何度も読み漁り、今日も窓の外の水平線を眺めている。

 -正体は数千年前を生きていた科学者。
 現在では普通とされるレベルの科学をその時代に展開していた天才児。
 コールドスリープで眠っていたが、ここ最近になって目覚め、目覚めた母国は既に滅んでいた。
 趣味は執筆。
 幼稚な恥ずかしい趣味だと本人は思っており隠していた。
 

「鳥が流れて来るのはよくあったが、ここを訪ねてくる人間は初めて見た。ちょうどいい、今は西暦何年だ?」
「「飛」は、創造物だぞ。だって、そうだろう。どこかの童話の人魚姫のような、イカロスの翼のような種族と話。紛い物にも程がある」

 
 -が、自分の物語で綴っていたフィクションの種族、人物が現実世界を闊歩している。
 兄(illust/63640041)の願いのせいなのだが、それを彼が知る由もない。
 

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◇飛¦novel/8210122

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  「飛」とは。

  飛とは、創造物。俺の情景と探究心と青への敬意。
  あの空の果てには何があるだろう、あの空を泳げたなら何が見えるだろう、そんな非現実的なことばかり。
  あの海の底には何が存在するだろう、あの海の中で呼吸が出来たなら何をするだろう、そんなもしもの話。

  途中で道が途切れてしまった未完結の物語。

  最初に綴った物語は「レゾンデートル」だった、次に続いたのが「イドラ」「アポリア」。
  「ノイラート」、「オートノミー/シャフツベリ」、「ゼノン」、「アイデンティティとアイリ」…-etc

  綴った本達は兄の部屋だった場所にご丁寧にしまいこまれていた。
  永い年月の中でも保存されていたおかげで風化はしていないが、本の状態は何故かバラバラだった。

  俺が物語を綴り続けた理由は、兄がこの話をとても気に入っていたから。
  だから俺は綴り続けた。下らない趣味だと思いつつもペンを走らせることが楽しかった。

  -…

 「この本達も、もう読者はいない。読者は兄一人だった。その兄もとうの昔に死んだ」
 「どうするべきか。…昔の自分の作品ほど見るにたえないものはないな…」

 

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◇飛の媒体はソクラテスの綴った「本」である。
 人並みに生活し生きているとはいえ媒体である本を破損されれば絶命しその存在が「無かったこと」になる。
 
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*.+既知関係
レミニッシェンツァさん¦illust/63710939
 放り投げられていた一冊の本。
 何となしにそれを拾い上げ頁を開く。
 途中までは綺麗に綴られていた文字列が、後半になるにつれて、
 落描きや文字が滲んでいたりと本としてはひどいものだ。
 しかし不思議とその文字達は楽しそうに見えた。
 子供の落描きがとても楽しげなように、その文字達もまた生きていた。

 本を閉じる。
 誰が綴ったかもわからない物語を、自然に脇に抱えた。
 その本と出会った日も晴天の空の下だった。

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  拝啓、空上の平行線へ
  貴方の世界は今日も優しいものですか
  眼に見える景色は悲しいものではないですか
  今日も海は穏やかですか
  昨日の空はどうでしたか
  海の上は歩けそうですか
           ---応答なし

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2017-06-30 15:04:01 +0000