❖絆❖ 終の国、エルロード:ネムさんillust/63263655
-------------------------------------❖ 墓標 ❖-------------------------------------
薪たちは己が宿業を超えるために生涯を全うし、遺産を遺して逝った。宿業を失った僕は彼らの生涯を振り返り思った
「みんな、自分が生きた標を遺してないなあ」
僕は彼らが確かに生きた標を、そうだなお墓をこの世界に遺す事、それを死ぬまでに為すべきことにした。その後訪れた国はそれに丁度いいと僕は思った。
終の国、エルロード
葬儀と末期者の楽園。その長もそれを象徴するような容姿だった。喪服のようなドレスに闇底のように暗く重い気配、そして彼女から感じ取れる大きな負の力。長の名はネムといった。ネムにこちらの旨を伝えるとどうもいい顔をしない。
「やめた方がいい」
理由を聞いても答えは返ってこない。国の事情に肩入れするほど馬鹿でも酔狂でも無いし諦めて帰ろうかと思たとき、「蝶」が目の前を横切った。ふと視界に入った珍しい蝶に手を伸ばし…
怖気が走った。深く深く一度踏み入れれば二度と出てこれないであろう暗い闇、深淵。
その怖気はその蝶からではなくその蝶につながる「ナニカ」から感じ取れた。これほどの闇は薪たちの記憶にすら無い―――
直後、ネムに手をはたき落とされた。軽く謝罪されたがその目は依然と重くむしろ更に険しくなっていた。ネムから再度国を出る事を勧告されたが僕は断った。理由をその時はなんとなくと述べたが、後になれば見れば先刻のナニカに興味があったのと、ネムの逼迫した険しい表情を見ない振りが出来なかったからだが、
あの時の僕にはまだその理解が及ばなかった
-----------------------------------------------------------------------------❖ 点火 ❖-----------------------------------------------------------------------------
後日ネムになぜこの国に拘るのかと問われた。僕は変わらず先祖たちの標を作るためと言った。
「それならばほかの国で出来るでしょう」
「まあね、でもここにするって決めた」
「僕は近いうちに死ぬ身でね。ほかの国を転々とする余裕も時間も無い。ここが僕の最期の地になるのさ」
ネムは状況を飲み込めず顔を訝しめる。僕は先日あえて隠した先祖たちの、”薪”の宿業を語った。
初代の「火」から始まった爛れ燃え尽きる短命な生涯、後世に遺産を遺すために必死に足搔き、そして完成された未来を信じ死んでいった先祖たち。ネムは程なくして告げた、やはりこの国に居るべきではない…っと。この国が葬送の国であるのはその魂を搾取しているからだと、この地はその薪たちにそぐわない。
「いいさ、別に標を遺せればそれでいいし。死んだ後までなんて皆考えないからね。むしろさ」
「僕は先日の蝶に興味がある」<ネムの表情が再び険しくなる
「さっき言ってた搾取ってのはあの蝶から感じた脅威に関係するものだろ」<ネムは答えない
沈黙もまた応えなりと受け取り、僕は続ける
「会ってから気になってた。あんたの目には希望が感じ取れない死を覚悟したような眼だ。あんたのそのバカでかい負の力も搾取によるものかい?」<ネムが一歩前に出る
「手を貸すよ?」
「なに?」<ネムの動きが止まる
「どうせ死ぬんだ、だったらエルロードを救って死にたい。」
ネムは問う。どうしてそこまでするのか、僅か数日訪れた国のために命を賭けるのか。
「言ったろ。此処に来たのは薪たちの標を遺す為だって」 ってのは建前…本音は
ネム、君が深淵の驚異と心中を図ろうとしていたらから、君を見殺しにしたくなかったから
「どうする?どっちでもいいよ?僕は」
ネム、どうか僕を頼ってほしい。僕の短い命で君の非業を絶たせてほしい
----------------------------------------------------------------------------------❖ 払暁 ❖----------------------------------------------------------------------------------
ネムは僕の応えに応じてくれた。脅威の胎動が強まっている現状、事の進展は矢継ぎ早に進んだ。ネムのこさえた大魔術を僕の火で最大強化し強化を施すことにした。僕の火で焼き払う案も挙げたがそこだけは絶対に譲れないと念を押された。そして数日後ネムとの最終調整を済ませ、僕らは脅威へと挑む
深い深い地下階段を下り、脅威の眠る扉の前に立つ。
虚無感
それだけが蔓延していた。魂を覆う全てのものを排除する力が虚無感となり全てを消し滅してゆく強大な力。
「生憎、あんたのご厚意に甘える気は無いよ。妹さん」
僕は自身に火を「点火」する。莫大なエネルギーが全身に迸り血の回路は煌々と輝きを放つ。そして黒く枯れた頭部の枝に火種が灯りその一本一本に火が宿り赤々と輝きだした。
隣に立つネムはその過程を目にしながらも扉の先に注意を向けている。当然かこの扉の先に妹さんが…脅威が居て、僕らがヘマすればエルロード国は滅ぶ。あらゆる重責を目前にし背負う彼女に僕は掛ける言葉が見つからなかった
だからネムの手を握った。君は一人ではないのだと、僕が君を守る希望の火となる
すると自然と一言が出た
「妹さんを助けよう、ネム。大丈夫、僕の初代も国を救ったんだ。君の国も救えるさ」
ネムの反応を見る前に、遂に扉が開く
深淵が訪れる、昏き怪物が迫り来る、僕は「火」を起こす、ネムは「術」を起こす
明けない夜など無い、醒めない悪夢などない、ネム、エルロード、そして妹さん
夜明けの時が来たよ
◆◆◆
僕は自分の短命に嫌気がさし自堕落な生き方を選んだ。その未来に生きがいを失って。ネムもその未来に希望を失ったがその生き様は大樹のように確固たるものでそれが僕には羨ましかった。それに綺麗で美人でさ、一人惨めに死んでいくなんて勿体ないしさ、まあつまり僕はネムが、いやこの感情は「火」と共に焼いてしまおう。きっと一時の気の迷いだから。僕が為すべき事は2つ、1つはエルロード国を救う事、そして
ネム、君を絶対に死なせはしないこと
❖ドーン設定&第4期絆関係者様novel/8288780
2017-06-01 13:53:44 +0000