【九十九路】ロミナ【第四期】

あべ
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◆企画元:九十九路の羅針盤【illust/60865485

◆魔石心臓の移植者 ロミナ・ジュエル [Romina Jewel] 12歳/ 女性/ 145cm/ 羅針盤:明星
◇一人称:わたし/二人称:あなた、呼び捨て

◆先代:ユウェル【illust/61772813】(第二期投稿キャラクター)
 ※同じ魔石を心臓に移植されているという繋がりで、直接の血縁関係はありません。

◆(5/24)素敵な絆を結んで頂けました! エテルノさん【illust/62698937
近隣の住民でさえ不吉だと言って近寄らなくなった廃墟に、訪ねてくる影がひとつ。別段、恐怖も驚きも感じなかった。
この心臓の石は人の死を招くものだけれど、時として人を狂わせる程の魅力があるという事は、書物で読んで知っていた。
「あなたはだれ? こんな古びた屋敷に何の用? …ええ、ここには今はもうわたし一人よ。
 ママはわたしを産んですぐに亡くなって、パパが育ててくれたけど、そのパパも死んでしまったわ。
 わたしが死なせてしまったようなものだけど。…この光が見える?
 ここに、わたしの使い物にならなくなってしまった心臓の代わりに、呪われた宝石が埋まっているわ。
 あなたの目当てはそれでしょう? 抵抗したりはしないから、早めに終わらせて貰えると助かるわ。
 …違う? でも、この家にはもう、高価そうなものはそれくらいしか…泥棒に来たのではない?」
目の前に立っていた人物は、いかにも人の好さそうな青年で、嘘を言っているようには見えなかった。
ただ、普通の人間では無いのだろうという直感があった。どうしてそう思ったのかは、その時は分からなかったけれど。
「泥棒でも人さらいでも無いけど素性は詳しくは明かせないなんて、充分怪しいと思うのだけれど。
 どの道、ここにいてもする事はほとんど無いから…何処へ連れて行ってくれても構わないわ」

何をやってもぴくりとも表情を変えず反応も薄い、人形のようなわたしを相手にするのは骨が折れただろうと思う。
それでも彼――エテルノは、嫌な顔ひとつせずに向き合って、世話を焼こうとした。
彼の素性は未だ知れないけれど、とりあえず重度の物好きである事は把握出来た。
そんな折、立ち寄った国で彼は政府の偉そうな人に呼び止められ、私に行かなければならない所が出来たと告げた。
私は率直な疑問を口にした。
「あの国はあなたの故郷? あの国で戦う人の中に、あなたの特別な知り合いでもいるの?
 そうでないなら、あなたはどうして、あなたに少しの関わりもない戦争の為に動いているの?
 あなたがそうまでする義理はないのに、あなたに何の益があるの? …心配、とは…悪いけれど違うわ。純粋に疑問なだけ」
彼が何故、自らを危険に晒してまで、他者の為に身を削ろうとするのかが、分からなかった。
戦争を終わらせる力があるからと言われても、今のわたしにも、昔のわたしだったとしてもピンと来なかったと思う。

ずっと自分が世界の中心と思って生きてきた。
我が身が世界で一番可愛くて、世界で一番不幸で、世界で一番可哀想なのだと、そう。
だから、わたしの世界にパパ以外の他人は存在しておらず、さして興味もなかった。自分の事だけで手いっぱいだった。
それなのにこの人は、見ず知らずの私に親切にし、会った事もない他人の為に力を尽くすと言う。
……少しも姿は似ていないのに、医者だったパパの姿がふと重なった。
「エテルノって、お兄さんみたいだけど、時々パパみたいな事を言うのね。もっとうんと年上? そう。
 …そのくらい生きられたなら、わたしにもいつか分かる時が来るのかしら」
言いながら、予感していた。恐らくきっと、そんな事は叶わない。自分の命がそんなに長くない事を、どこかで察していた。

「病気だった頃の、少なくとも心は正常だったあの頃なら、きっともっと感動的に思えたんでしょうね。
 夢がひとつ叶ったのに心が動かないなんて、なんて皮肉。
 …この際だから、してみたかった事を全部言ってみて、って? あなたって……暇人なの?」
僕には時間が山ほどあるんだ、と彼は笑った。心から楽しんでいるようにも、苦笑いのようにも思えた。

「人の心を覗ける力? そんなものがあるなら、わたしにも使えば良かったのに。何故そうしなかったの?
 わたしの心が視えていたなら、もっと円滑なコミュニケーションも取れたでしょう。
 …プライバシーを尊重して貰っていたみたいだから、そこはお礼を言っておくけれど」
彼が自分の能力について明かした時、そんな事を言ったのを覚えている。
そうしてふと、誰かに似ているような、何処かでそんな話を聞いた事があるような、そんな気がした。

「エテルノ、あれ。魚が空を飛んでる。…本当にあったんだ、空の海を泳ぐ人魚の国」
「エテルノ、あの果物みたいなもの何かしら。…うっ…まずい……」
「エテルノ、」
「ねぇ、エテルノ」

ある時を境に、わたしの体はひどく重たくなった。
まるで心臓以外の部分は作り物の体であるかのように、実感が鈍い。眩暈と吐き気が酷く、時には起き上がる事さえままならなかった。
その感覚は日に日に増していった。わたしの体は、この心臓を受け取る前の状態――死体に近付いていた。

「エテル…ノ。お願い、が、ある…の」
息をするのも苦しい。今すぐ眠ってしまいたい。けれど、その前にしておかなければならない事があった。
「わたしが、死んだら、ここから、心臓を抉り出して……何処か、誰の手も届かない所へ…捨てて欲しいの。
 この石は人を、不幸にするから…不死のあなたにしか、頼めないの。だから…」
彼は、わたしの手を握りしめながら、快く引き受けてくれた。
握られているという感覚ですらどこか遠かったけれど、その手は確かに温度を持っていた。
彼の言葉に、眼差しに、握る手に、温度に――それまでの生涯の中で、心は初めて安らぎを感じていた。
「良かっ、た……。安心、した……」

もう目も見えない。自分が今、どんな表情をしているのか、分からなかった。
深い闇の帳が下りてくる。不安も、恐怖も無かった。
「今まで、ありがとう…――」
瞼を閉じたわたしは、二度と覚める事のない眠りへと落ちていった。

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2017-05-14 16:18:34 +0000