みかん

mikamoxom~

追悼

21年8ヶ月でみかんが死んだ。
みかんは可愛くて、凶暴で、火を噴くみたいな猫だった。背中の毛が陽の光でオレンジに燃えて見えた。茂みや低木の間を生き生きと走り抜けた。大きなピカピカの目玉が鈍い金の条でギラギラした。綺麗な青い鳥を咥えて帰って来た。いつも私についてきた。いつも抱っこをせがんできた。私の上着のボタンを引き千切って、私の懐に潜り込んだ。湯船で寝入った私を起こしてくれた事もあった。3回。
仲良しは私と幸太郎だけ。後はみんな嫌いだった。
引っ越しして、外へ出してあげられなくなって、本当に可哀想だった。窓の外の鳥を見て、「ケケケケケケ」と鳴いてるのを聞いて申し訳なかった。自然の中でギラギラ光る目玉が好きだったのに、家の中に閉じ込めた。殺してしまった思いだった。
歳をとってからは、ご飯が気に入らない!って根比べだった。食べても食べてもどんどんやせて、小さく細くなってしまった。歯が痛そうだった。今まで大きな病気も怪我もした事なかったのに、3年ほど前から病気が続いた。
突然ご飯を食べなくなって、大好きな牛乳も飲まなくなって、ご飯くれ!って叫ばなくなって、動物病院で点滴打っても先生に噛みつかなかった。前日までいつも通りだったのに。沢山食べて、沢山飲んで、私を探して大声で叫んでいたのに。追いかけて来て、無理やり膝に乗って来たのに。腎臓がとても悪くなっていた。そんなに酷いとは、思わなかった。
仰向けになった私の胸の上、上着の合わせを緩めて懐中で温めてた。1分くらいの大きな痙攣が立て続けに3回。そして短い小さい痙攣が1回。そのまま2時間くらい気付かずに抱っこしてた。おしっこの匂い。寝返りを打たせようと手を触ったら、硬い。心拍は、私の心臓の真上にいるからわからない。呼吸、私の肺の上にいるから、わからない。体があったかいものまだ死んでない!まだ死んでない!でも体が硬い。心拍と呼吸を確認するのに床に降ろさないといけない。手放したくないのに。床に降ろしたくないのに。顔を見て、死んだ事がはっきり分かった。開いたままの瞼の間から、あのキラキラの目が澱んでいるのを見て、はっきり分かった。また抱っこして、しばらく茫然とした。体はまだ温かいのに。少し待ったら、いつも通り目を覚ますんじゃないか?もう少し待ったら、いつも通り私の顔に爪を立てて、ごはん!って言い出すんじゃないか?もう少し待ったら。どうしたら、つい先日に戻れるんだ?ほんの数時間前だというのに!
いつまでも抱きしめていたいのに、このまま温め続けてはいけないのも分かっている。そろそろ認めなくてはいけない。受け止めなくては。みかんがいない私をどうしたらいいんだ?21年振りに、一人なんだぞ。21年間いつも一緒だったんだぞ。温かくて柔らかい愛する物を永久に失った。もう二度とない。他に代わる物はない。いらない。正気でいられるのか?叫びたいけど、声が出ない。誰かに伝えないと、一人では抱えられない。いつかは死ぬのは知っていたけど、何も分かっていなかった。

#cat

2017-05-10 10:31:03 +0000