ファセル・ヴェガFV3B

夏野勇
Go back

ファセルは既に存在しないフランスの高級自動車メーカー。ファセルは「ユール・エ・ロワール金属加工所」の略称です。

1939年にジャン・ダニノによって創立されますが、程無く勃発した第二次世界大戦で雌伏期に入ります。

戦後、ファセルは金属家具や工作機械を製造していく過程で身についた金属加工技術を生かし、乗用車ボディの製造(所謂コーチビルダー)を始めます。その幅は広く、フランスフォード、シムカ、パナールの大衆車メーカーから、ドライエ、ブガッティの高級車まで請け負いました。然し程無くして高級車メーカーはフランスの禁止税的税制(当時のフランスは産業復興に必要な小型、中型車の生産を優先させる施策を採った為)によって消滅し、大衆車メーカーもモデルチェンジによりボディを自社生産するようになると、その収入源が失われます。

ダニノは社交界に出入りする人物で、彼にとってフランス高級車に対する禁止税的税制の風潮は喜ばしいことではありませんでした。そこで彼はフランス製高級車の復権を狙い、ボディ製造の遊休施設を使って高級車製造を開始します。ファセル・ヴェガはこの時生まれます。

ファセル・ヴェガの2ドアクーペは大戦の復興が進んでいないフランスを含む欧州向けよりも対米輸出を念頭に置いた、全長4.6メーターオーバー、全幅1.7メーターオーバー、車重1,600キログラムオーバーの大柄なモデルでした。何れも米国のクライスラー製のV8エンジン(ヘミエンジン、B型エンジン)という大排気量でハイパワーなエンジンを載せており、時速200キロを出せる高い動力性能を持っていましたが、それとは引き換えに慢性的にブレーキ性能が低い傾向もありました。

内外装も凝ったもので、内装は家具メーカーらしく、金属板にクルミ材風木目塗装を施されたものを使う他、上質な革シート、垂直に取り付けられたウッドステアリングを持ちます。外装はFV2以降のモデルに採用されたAピラーを内側に湾曲させ、大柄な分割グリルを持ち、FV3以降には縦目の四灯ヘッドランプ(上がヘッドランプ、下が補助ランプ)を持つ、豪奢なスタイリングでした。

大きく分けて三タイプが存在し、1954年から1959年の「FV」、1959年から1962年の「HK500」、1962年から1964年の「ファセルⅡ」が生産されます。

大型のファセル・ヴェガシリーズは「For the Few Who Own the Finest(最高のものを所有する少数の人のために)」というキャッチフレーズに相応しく、F1ドライバーのスターリング・モス、ザ・ビートルズのドラマーのリンゴ・スター、画家のパブロ・ピカソ、俳優のトニー・カーチス、歌手のフランク・シナトラ、サウジアラビアのプリンス、モナコ公妃グレース・ケリー等の多くの著名人に愛用されました。

今回のFV3BはFVシリーズの中でも最後から二番目のモデルで、4.9リッターV8ヘミエンジンを搭載したモデルでした。このエンジンはクライスラーの中でも上級モデルに搭載された物でした。そして何よりこの車は1960年、フランスの文豪、アルベール・カミュが事故死した時にガリマール書店の幹部のミシェル・ガリマールと乗っていた車でした(運転は持ち主のガリマール自身で、この他にガリマールの妻と娘が乗っていました。カミュは即死、ガリマールは病院で数日後に死亡、妻と娘は軽傷で生還)。事故の原因は無理なスピード超過と言われています。

今回はカラーバリエーションです。

#car#フランス車#sunset#墓場#ファセル#ファセル・ヴェガ#ハードトップ#クーペ

2017-03-16 22:07:29 +0000