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珍しく改まった調子の華梨には最初は戸惑ったものだが、
話を聞くうちに、悪い知らせでないことにまずは安堵した。
一応、司教としては「お礼を言われるほどのことはしていない」との雑感もあったのだが、
そんな遠慮をいちいち強調するっていうのも野暮な話だろう。
「愛を知った」から「この教会を離れる」と、彼女は言った。
その言葉に寂しさを覚えないわけではなかったけれども、それが彼女なりの
『正しい道』を見つけてのことだったから、嬉しさにも似た晴れやかな思いが上回る。
子どもの門出を見送る家族の気持ちとは、このような想いなのだろうか。
……本当の親より先にこの気持ちも味わうなんて、ずるいだろうか、なんて。
「世界を渡る手段……僕の解る範囲だとその手の知識に関しては、カダス商会を当たるのが一番手っ取り早い気がする。
まあ世界を渡る技術なんて、お金で買えるものに書かれてるのかわからないけど……」
記憶をたどりながら、少し自信なさげに口を開く。
なにせポケランティス歴はまだ浅いので、世界を超えるほどの技術が見つかるような、
英知をたくわえた場所には、まだあまり心当たりがなかった。
「あとは、そうだな。ファウンスを覚えているかい?
そこに大賢者ジ・ラーチという賢者様がいらっしゃるそうだ。
彼に時間があり、また君がきちんと向き合えるなら、教えてもらえるかもしれんな」
頭をかきつつぶつぶつ言う彼に、ふと彼女は、おず、と前に出る。
「司教さま、」
「ん?」
「……あ、いや。なんだか、思った以上にすんなりと話が進むなあって」
彼女は、彼の過去を知った今、この小さな司教の本当の姿は寂しがり屋ではないか、
とかすかに心配になっていたただけに、存外あっさりした反応に拍子抜けしていた。
「なに、こんなトコで独占欲出してダダこねるのも大人げないってだけさ。
それに『一度世界を渡った』なら、二度目があったっておかしくないとも。
だから、きっと永遠の別れではないと。僕はそう信じている。
……良くも悪くも、頑固に信じることがお仕事だもんでね。あはは」
いや、この言い草からして、寂しがりの認識は正しくって。
――だからこそ。
「やっぱり、やりたいことをやって、幸せになってほしいもの。
その気持ちを忘れないでいてくれれば、それは僕たち教徒が育てた"アイ"の証になる。
そしてその"アイ"を通して、世界の裏側にいるキミが幸せになれたとわかれば、それでいい」
ずいぶんと不器用で遠回しな見栄だなあ、と彼女は思った。
どこどなく複雑そうな彼女の表情に、はたと司教は気が付いたらしい。
「ああ、そうそう。もしファウンスの方に行くなら僕も付き合うさ。
過保護なもので、一人旅させるのはさすがに不安だからさ」
慌てたように申し添えた言葉一つ残して、彼は少女に背を向けた。
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【novel/7858736】へ。いってらっしゃい!
*華梨ちゃん【illust/57893005】 司教代理【illust/60979161】
2017-03-05 04:48:47 +0000