大迷宮《ラビリンスウォール》。星の討伐団《スターバスター》に所属する救助隊《サンウェザー》は、ダンジョン内に取り残された要救助者を確認するために、三手に分れて捜索を続けていた。隊長のクヌギ・アマミツもまた冷気たちこめる氷雪の道を進み、ダンジョンの一室に入ろうとしている。
「あれは……」
凍てつく靄(もや)の先に、アマミツはトゲチックの姿を認めた。
要救助者だろうか。近づいてみると、それは年端ゆかぬ少女であった。両端に薄いオレンジのリボン、左端に向日葵のブローチを付けた少女は、座り込んだまま動悸に耐えているようであった。
「大丈夫ですか?」
ただならぬ様子を見かねてアマミツは彼女に声をかける。声に応えて上げた少女の顔は、思った通り青ざめていた。
「あなたは……」
「スターバスター所属、救助隊《サンウェザー》のクヌギ・アマミツです。残留者の救助活動で来ていたのですが、見つけられてよかった」
「救助隊の方、ですか? それならば、これをどうぞ」
少女は懐に手を伸ばし、白のキャンディとピンクのリボンが付いたお札を取りだす。そしてそれらをアマミツに差し出し、力弱くも暖かい笑顔を見せた。
「私はパンドーラのハナです。皆様の無事をお祈りして、お菓子と、お札を……」
言葉の途中で、ハナは激しくせき込む。アマミツが注意深く耳を傾けると、ひゅうひゅうとした呼吸音が聞こえた。
(この人は、こんなことになってまで他者を思いやれるのか)
ハナの体調を気にしながらも、アマミツは彼女の心優しさに感銘を受けていた。ダンジョン化でポケモンの心が荒廃しつつあるなかで、彼女が持つ穏やかで力強い気質は得難いものであるように思えた。
「ハナさん、でしたか。これ以上ここに留まるのは危険です。あなたも撤収してください」
ハナからキャンディとお札を丁重に受け取ると、アマミツは彼女に撤収を促す。
「ですがこのダンジョンに残っている方々を置いて、私だけ退くわけには」
「両陣営とも、既に撤収が始まっています。それに今のあなたの体調では、ダンジョンでの活動は難しいでしょう」
ハナは目を伏せ、言葉を詰まらせる。その顔は心配そうであった。恐らく、助けを求める人を置いて離れることに罪悪感を感じているのだろう。
生真面目なアマミツは、その気持ちがいたくわかっていた。
「……大丈夫、すでに自分の仲間たちが残留者の救助に動いています」
心配させじと、アマミツはハナの瞳を見つつ、穏やかに、かつ力強く告げた。
「ダンジョンを出るまで、自分が護送します。ハナさんもどうか、御身を大切になさってください」
アマミツは、ハナに手を差し伸べる。
その手には、彼女を助けたいという切実な気持ちが込められていた。
---------------------------------------------------
最終章が始まりましたが、こちら【お菓子配りの少女 illust/59917514】のハナさんが気になっていましたので。声かけをさせていただきます! 時系列としては3章終盤になります。
ここでアマミツはハナさんの撤収を促し、護送を請け負うつもりですが、提案を受けたかどうかはお任せしますので、どうぞよろしくお願い致します…!
=お借りしました!=
ハナさん【illust/57744612】
『聖人たちの灯』主要アイテム
【illust/59492487】
■サンウェザー隊長 クヌギ・アマミツ
【illust/60597241】
2017-01-15 12:41:52 +0000