すずさんの笑顔が中毒になってしまって禁断症状が辛い

KEMI

◆◆◆※コメントも含め、ネタバレアリですのでご注意ください。◆◆◆
絵をちょっとだけ描き加えました。Ver1.2

「この世界の片隅で」見てた感想を考えたはいいんですが、
私の文才だとこの作品を気に入ってないみたいに見えたので、
絵描きは絵描きらしく、絵で表現してみることにしました。

一応言いたいことを厳選すると、

・私もすずさんの膝枕で癒されたい!
・私の中で広島弁の女性の株がストップ高!

以下、読み飛ばしていただいて結構です。

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見てきました。

戦争を扱った、又は戦時中を舞台にした作品がどんどん少なくなり、時代劇も含めて朝ドラと大河ドラマ以外で「日本人が現代(平成)とは全く違う価値観を持って生活している」シーンを見ることが少なくなってきた昨今、画像の高画質化に伴って以前作られた作品は相対的にいかにも古臭く、現代においてそれらを改めて見ることは一部の懐古主義マニアを除いては学校から強いられる学習教材の一つとしてしか受け止められなくなってきている現代に、そういった「構えてしまう」要素を極力目立たなくしてエンターテイメントとして十分に見ごたえのある作品を世に提供してくれたこの作品には敬意を表したい。

前半、最も身近なちょっと前の日本。同じ日本だけどそのことに甘えずにしっかりと世界観を説明するシチュエーションと細かな生活描写がスクリーンの外にも広がる世界を感じさせてくれる。
足で踏んで洗濯、一升瓶にお米を入れて棒でつつく、油断するとすぐ砂糖にアリがたかる。ぎりぎり記憶にある昔の当たり前が心地いい。小道具や会話食事や掃除や水くみといった緻密なディティール描写によって、見てる人に登場人物が自分と同じ「日本人」だということを丁寧に説明していて、それが後半の戦争激化によって忍び寄ってくる不安と恐怖を見る人に共感させます。

後半はある事件から一転、厳しいとても厳しい戦時中に生きることの現実が畳みかけられます。一番戦慄したのは原爆のきのこ雲でも時限式爆弾でも焼夷弾の嵐でもなく、連日連夜、数時間毎にやってくるいつ果てるとも知れない空襲警報。これはキツイ…もはや空襲警報と空襲警報の間をどう過ごすかみたいな生活。そして観てる側の脳裏に蘇る東北大震災時の断続してやってくる地震警報。身に覚えのある恐怖とリンクしてしまい、正直見ているのが辛かったです。

そして終戦、玉音放送時が流れ、すずの性格からして泣き崩れるかと思いきや最後の一人まで戦うんじゃなかったの!とまさかの激昂。

このシーンを見てはだしのゲンに纏わるある話を思い出した。
細かく覚えていないんですがゲンの母親が放射能によって衰弱し最後に命を落とした場面。ゲンは号泣しながら天皇に対して罵るシーン…と記憶しています。

この二つは同じことを表していると思うのです。すずは別に本気で全滅戦をしたいわけじゃないというのは誰の目にも明白です。
それと同じでゲンだって本当は天皇がどうとか戦争犯罪人がどうとかを批判したかったわけじゃないと思うんですよね。
別に天皇じゃなくてもアマテラスでも、聖徳太子でもブッダでも、いっそ神でも悪魔でもいい、要するに誰でも何でもいい。
ただそれまで絶対と信じてきたものを冒涜するような言葉を口に出すことで、大切な人を失った怒りを、理不尽な現状に耐えてきた憤りを表しているわけですよ。

しかしはだしのゲンの方は連載後半に戦争責任や日本軍の戦地での振る舞いを批判する話が多くなり、つまり作者本人の体験談でないところを描いてしまったので事実かどうか判断つかない話や思想的な話が増えていき、肝心の「原爆体験者が見た原爆の恐怖」という本当に届けたいテーマにとどまらなくなってしまいました。
(なにより残念なのはそれによって教育の現場に置けなくなってしまったことです)

当時ほとんどの子供のトラウマになった「反戦漫画」のはだしのゲンに対し、このセカはひたすら農家の1個人の話に終始しているおかげで同じ舞台同じ視点でありながらよりテーマがはっきりしていて、現代の日本人すらも憧れてしまうような日本の原風景のなかで自分と等身大のすずが日常を過ごす姿を応援したくなる、だけどやっぱり後半の悲しいシーンは見るのがちょっと辛い、そう思ってもらうのがこの作品の本当のテーマだと思いました。

「反戦映画」でも「泣ける映画」でもなく、たまたま舞台が戦時中であるだけのホームドラマ。
私は他の人にそう伝えたいと思います。

まあ、私の一番の泣きポイントはすずさんが絵をあきらめてしまったこと。
値千金のすずさんの右手、プライスレス。絵描きとして、一番恐怖を感じました。

#こうの史代#この世界の片隅に#北條すず#北條周作#黒村晴美#水原哲

2016-12-25 15:00:05 +0000