捕虜として収容所に連行された初日、他国の捕虜の一団がが伐採作業の為に出かける所を目にした絵里とにこは、早速その一団に紛れて脱走を試みる。二人はコートと帽子を羽織りまんまと成りすまして行進に加わることに成功した。行進を始めて間もなく絵里が他国の捕虜の母国語で会話している。
「あんた、ロシア語いけるんでしょ?」
「少しだけなら話せるわ」
絵里がロシア人のクォーターであることは、にこも知ってはいたが、実際に会話をするのを見るのはこれが初めてである。
「…あたしにも教えなさいよ」
「ヤ・バス・リュブリュー」
絵里の発したロシア語。にこは旨く舌が回らない。
「や…。やばす…?」
「リュブリュー」
しどろもどろな発音に四苦八苦するにこに絵里が再び応じて見せる。
「いぶり…。ヤバス?リュブリュー?。やばすぎる…か。なんて意味よ?」
にこの問いに、絵里は思わぬ回答を出した。
「愛してる」
「あ、愛してる!?そんなのが役に立つの?」
「どうだか」
あっけに取られるにこを横目に絵里は悠々と進んでいく。しかし看守の目は節穴ではなく、トラックの荷台に隠れていた希もろとも絵里とにこは入り口付近であっさりと発見されて収容所内に連れ戻されたのであった。
2016-12-02 04:10:18 +0000