2016年11月22日、夕方、霞ヶ関の合同庁舎前で黒革のパスケースを拾った。中を見れば無記名のICカード、激安スーパーやドラッグストアのポイントカードなどが数枚。個人を特定できそうなものは入っていないようだった。年季の入った革のわりに傷などは少なく、持ち主が丁寧に扱ってきたことが伺えた。
交番は駅とは反対方向だ。できれば早めに社に戻って、残りの仕事を片付けたいんだけどなあ……、そんなことを思いながらパスケースを閉じた時、裏側にもう一つ、カードを入れるためのポケットがあることに気づいた。多少の罪悪感を感じながら開いてみると、そこには古ぼけた一枚の写真。若い夫婦と思しき男女の彩色写真だ。どこかで会ったことがあるような、無いような、そんな顔立ちのふたりを眺めていると、懐かしいような、ホッとしたような気分になる。モノクロの写真技術しかなかった時代、彩色されたこの写真の出来栄えに、ふたりは目を輝かせただろうか。夫婦はどんな事を喜び、どんな事を哀しみ、どんな時代を生きたのだろう。
━━つかの間のタイムスリップに興じていると、冷たい秋風が吹いた。そうだ、仕事に戻らねば。でも、その前に。
私は軽やかに、今来た道を反対方向に歩き始める。交番はふたつ先を右だ。この写真が、どうか持ち主のもとへ届きますように。
(こういうモブおじさんに生まれ変わるのが夢です)
2016-11-22 14:03:06 +0000