憐れな猿共は勇敢に戦った、呆れるほどに。その無垢なる果敢さこそが破滅を招いたのだ。彼我への無知から生まれ出でし勇気など、鍛え抜かれし戦列と無慈悲な野戦重魔砲火力支援の前には無意味だ。間に合わぬ増援、浅慮と蛮勇、堆く埃の積もった過去の栄光、集積所で腐敗する兵糧、展開前の兵器、豊富な戦力と物資も戦場に到達せねば全て無意味だ。時機と速度と位置、機動の妙を解さぬ蛮族に勝利が訪れる事は無い。
――エルブロン専制公ヨハネス、ラエッツェン会戦完勝後の覚書より
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辺境伯マリア「国王陛下と私の部下は?」
オークの元帥ブライテンフェルト「王は故国へ、勇士は永久の安息へ、臆病者は千里の彼方へ、残りし者は膝をつき虜囚に身を窶した。案ずるな、慮兵は規則に従い丁重に扱われる。我等は協定を遵守する。貴公らが戦時に一顧だにせぬ協定を。それにしても殊勝な家臣を持ったものだ、己の命を対価に貴公の解放を懇願する者が後を絶たぬ」
マリア「クッ、殺せ……」
ブラ(略「聞きしに勝る豪勇、見事なり“姫騎士”潔きガルドリン辺境伯マリア…猿モドキの女にしては誉れの何たるかを知っている。些か短慮であるが」
マ「辱めを受けるよりも死を選ぶ、当然の事だ!」
ブ「ムハハハ」
マ「鬼め、何がおかしい」
ブ「猿の出来損ないに我等が理性を失い、協定の捕虜取扱規則に反して嬲るとでも?大した自信がおありのようだな辺境伯……無論、貴公らに幾許かの報復を加える抗い難き欲求がある事は認めるに吝かではない。が、断じてそれは劣情に発するものではない。貴公らの野蛮にして恥知らずの“御同輩”と同列に扱う侮辱は止めて頂きたいものだ」
マ「…ならば、何とするというのだ」
ブ「無自覚とは憐れみすら誘うものだ。貴公らには知性というものが芽生えておらぬのか?その軍勢は神聖なる帝国領土を侵犯し何を為した?聖戦や討伐の大義を掲げ、その実、何を?無辜なる同胞の村落を焼き、臣民を殺め、女子供を苦役の奴隷として連れ去ったのは誰であったか。私を衝き動かして止まぬのは憤怒だ辺境伯。確かに私は貴公の四肢を引き千切り、その絶叫と苦悶を一頻り堪能した後、縊殺せんと欲している。貴公らの軍勢が面白半分に我が同胞にしたように。その生命が放つ最後の灯が静かに瞳から失われいく様は日の沈むタルモース海の様にさぞ胸のすく甘美な光景であろう。無論そうはせぬ、我等は理性と法に従う。皇帝陛下の慈悲と名誉を穢す振る舞いは慎むが故に」
マ「フン、慈悲と名誉とはな……亜人に慈悲と名誉が?国王陛下は蛮行を重ねる貴様らを征伐する為に兵を起こされたのだ。その非はお前達にある」
ブ「貴公らは正当なる防衛を蛮行と呼ぶ、不当な支配と搾取を平和と呼び、無秩序な荒廃を平穏と呼ぶ。蛮族に相応しい見識と言えよう。言葉を知れどその意を解さぬ、文字を読めどその意を読めぬ、目は開けど物は見えぬ、とは誰の箴言であったか。その有様では万巻の書を積み上げ、学堂に集ったところで、より深き迷妄に沈み、永遠に光明が差す事はなかろう。
だが、その処遇を決するは私にあらず。皇帝陛下の弟君、比類なき才幹の主、エルブロン専制公ヨハネス様が貴公に道をお与えになる。無知と憎悪に満ちた仄暗き世界に帰るか“全き平穏”を下賜されるか、あるいは…それまでは貴公らの崇め奉る全知全能の神に祈って待つが良い。貴公の神が御身に微笑みかける事を願ってやまない。さらばだ、ガルドリン伯。縁あらば今生にて再び相見えん。その行く末に実り多き生と満ち足りたる死があらんことを!」
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ガルドリン辺境伯マリア:
人間が統治するアグニタ王国より辺境の封土を任されたガルドリン地方の領主。近年その領地は通商路から外れ、経済的衰退が著しい。父と兄は帝国への“征伐”に従軍し戦死を遂げた。オークを鬼、コボルトを犬、帝国支配階級の竜の眷族をトカゲと呼び、人間以外を忌み嫌い、憎んでいる。辺境伯に封じられるだけの事はあり、家臣に慕われ軍事の才に秀でているが第4次クローシュ戦役においてブライテンフェルトの作戦により王国軍は崩壊、敢え無く捕虜となる。
スミルナ公ブライテンフェルト4世:
アミフィロキア帝国西方の防衛を担う誇り高きスミルナ公。エルブロン専制公ヨハネスと皇帝の信頼厚く、帝国防衛の要として重用されている。冷静な指揮と猛烈な戦いぶりから“燃え盛る氷山”の異名をとるが、本人は代々の統治領と領民に愛着を抱いており、ただスミルナ公と呼ばれる事を好む。忠誠心と実績において比肩する者はなく、訓練は厳格であるが軍紀を乱した者は親族であれ罰する公平さから、兵達もその指揮下にある事を誉れとするほどに信望を集めている。辺境防衛に全身全霊を捧げており、帝都の饗宴や宮廷の権力闘争からは距離を置く傾向にある。低い身分の愛人はいるが独身。一族から早く世継ぎを作るよう望まれているが…。
アミフィロキア:
竜の眷族が皇族を占める多種族国家、各種族の有力諸侯が皇帝に臣従を誓う事で成立した帝国。皇族、貴族、平民、奴隷の社会階級と経済・宗教・文化・職業組合等の縦糸横糸が絡み合い複雑極まりない社会を築いている。現皇帝ヴェイホール3世は人間と交渉の道を探っているが、帝国臣民を亜人と呼んで憚らぬばかりか人間同士ですら争いの手を止めぬ王国の傲慢と迷妄に手を焼いている。軍事的には王国を圧倒しており、幾つかの侵攻計画も用意されているが、損害予測と歴代皇帝の占領統治例から損益が見合わぬ事を熟知しており、防衛に徹している。何より軍事力に全面的に依存して敵を制する方法を文明的ではないと忌避しており、彼の統治下においては懲罰遠征を除き積極的外征は無いとされている。その態度が内外において弱腰と見られる事もあり、毀誉褒貶が激しい。王国から追放された者や混血種の移住を承認しており、一般に慈悲深い君主として知られている。公式文書では“太陽と月の照らす全土の支配者、竜の化身にして天空と四海の主、いとも慈悲深きヴェイホール”等の呼称で記される。帝国は現在安定した治世のもとにあるが、皇帝の弟である専制公ヨハネスを有力諸侯が担ぎ上げるという陰謀が度々噂され、かつての様に血で血を洗う内紛に陥るのではないかと危惧する者も少なくない。
クローシュ地方:
帝国と王国の境にある不運な地域、エルフの故郷。アルザス・ロレ(略
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クッ、殺せ…とか言う例のアレに思いを馳せ、一人酒というなかなか最低な遊びを催しておりましたら脳から色々溢れてきたので出力。続く…か?技術年代も謎の帝国にビザンツ的要素を一匙……。当初は13世紀風で考えてましたが19世紀風になったのは盟友MoffTaka卿のせいです(責任転嫁)この時はまだ、犬猿の仲の二人が王国と帝国を結ぶ架け橋となる事は誰一人として知る者はなかったのだ、的な。全力でふざけている時が一番楽しい……。
2016-10-30 11:07:13 +0000