*・.・*・.・*・.・*・.・*・.・*・.・*・.・*・.・*・.・*・.・*・.・*・.・*・.・*
「本当に私から逃げられると思って?」
その女性の射すくめるような視線が、怯える少年の足を止めたその隙に、黒くうごめく影が彼を喰らおうとすぐさま手を伸ばす。
もう何度目だろう。危機感に全身の毛が逆立つのを感じながら、ぼんやりと少年は頭の隅で考える。
何度、彼女のむき出しの殺意に耐えれば、この地獄は終わるのだろう?
「この世界のことには詳しくないが、……それでも判ることがある」
風圧、気配が動いた。瞬きの間に、末恐ろしいこの気配から少年を隔ててくれたものがある。
小さな鳥の青年だ。彼は翼を一振り、禍々しい黒い気配を払い取ってしまった。
「たとえ力が無くても、幸運にもこの身体――オバケの力が効きにくいこの身体なら、あんたは手が出しにくいだろ?」
ハッタリか空元気か知らないが、威勢の良い声を彼は女へとぶつけ威嚇する。
威勢はともかくとして、彼は彼なりにこの世界の法則を理解しているらしい。なるほど厄介だ。しかも、
「然り、ですわね。本当は逆もまた、と言いたいところですが……特別なとくせい持ちですか。厄介ですの」
と、その言葉を聞いて、一瞬青年の顔に影が差した気がした、と女は感じた。
とはいえそれは恐怖でひるんだわけではなさそうだ。どちらかといえば疑問――多分、自分のポテンシャルを把握し切れていないのだろう。
それならば、彼女にとってはそのリアクションには意味がない。
「なぁ、もう一度聞く。逃げたいか?それとも勝ちたいか?……戦いたくないなら、今の内だ」
相手の様子をうかがいながら、青年は迷う少年に問いかける。
女の言葉が突き刺さったままなのだろう。少年は『逃げる』の一言が口に出せないまま、言いよどんだ。
その時、二人の身体に刺すような痛みが走った。
痛み自体は大したことない、少しドアノブに触れてとか、森の木の枝にあたってとか、そんな程度のかすかなものだ。
なのだが、この感覚には覚えがある。特に少年にとっては、非常に慣れ親しんだ感覚だったはずだ。
「聞き分けが悪いようですわね。それならば何度でも繰り返しましょうか。あなた達は逃げられずにここで死ぬのです」
重量感のある声が二人にのしかかる。いち早く青年が声の主の方を向くが、主―――その女は不敵に笑うだけだ。
先ほど影の力が効かないことは身をもって示したはずだ。彼女こそ、ハッタリを仕掛けているのか?
「しかし、お前の攻撃はもはや…」
その時。もう一度、今度は少し強く痛みが走った。確信する。これは、
……ただの痛みじゃない、『しびれ』る感覚で間違いない。
「誰が『影の力だけが武器』って言いましたかねぇ?」
光が薄暗い洞窟を照らし始める。チッ、チッ、と舌打ちのような音が空間を切り裂き、まき散らされ始めた。
この世界の法則を思い起こす前に、二人の本能が、危険を声高に叫びだす。
「知ってるでしょう?翼持つものの天敵のひとつ、それは空そのものから放たれる天雷であると」
女の周りに、かつて少年がしていたように、雷がまとわりつきはじめていた。
*・.・*・.・*・.・*・.・*・.・*・.・*・.・*・.・*・.・*・.・*・.・*・.・*・.・*
【illust/59204394】と【illust/59222521】へ返し!!つつ!!隠し玉(※隠してない)ふぁいあー!!
ロンさんへは「10まんボルト」、ミライくんには「かげうち」を使い分けるようですね(ง'ω')و三 ง 'ω')ڡ≡
*ミライくん【illust/57719246】 ロンさん【illust/57707952】 トドメ貰いに行きます♡【illust/58328562】
2016-10-01 14:59:15 +0000