金城トク花冠を戴く者【illust/55830776】
第四期投票イベント【illust/58561882】
石の国に投票いたします。
鬼童不知火【illust/58751885】からフランベさんへ【illust/58877398】
完売した菓子の箱を前に、怒涛の一日が終わろうとしていることを自覚する。
今日は30年に一度の蒼月の日。
お祭りに向けて準備をしてきた菓子が全て売り捌けて、あたいは満足げなため息を吐いた。
店主のフランベは年越しを前に完売させてしまったことに、もっと数を作っておけばよかったと頭を抱えている。まったく、商人らしい。
あたいに手伝ってくれて助かったと、改めてお礼を言ってきた。
「三食デザートおやつつきで、相応の給料をもらったし、役に立ってたなら良かったよ。お菓子作りも少し教わって、面白いもんだなって興味も持った。そんなに長い間じゃなかったけど、あんたとの旅は楽しかった。こっちからも礼を言わせてもらうよ。ありがとう」
「『人生における唯一人の為に、唯一最高の逸品をあつらえる』ね…大層なしきたりだ。本当に、あんたの人生における唯一人があたいでいいのかい？ ああ…いいね、この簪。いつのまにこんなの作ってたのさ。こんなの見せられて、あたいの未来を奪いたいなんて…そんな情熱的なプロポーズされたら、靡かないわけにはいかなくなるじゃないか…奪わせてもらうよ、あんたから、この簪を。返せと言われても返さないし、奪われないように守る。あたいの宝物がまたひとつ増えたわけだ」
「おっと、忙しくて忘れてた。大したお返しにはならないけど、これはあたいからあんたへの礼だ。蒼月の日に贈る花。こんな花を用意してたんだから、あたいの返事は最初から決まってたようなもんなんだけどねぇ…あんたはあたいを力ずくで奪ってここに連れてきたんだ。もっと自信持てばいい」
「家族に挨拶…そうだよね、急に恥ずかしくなってきたな…！ あたいの実家は森の国だけど、先に陽の国に寄って欲しい。どうしても取りに帰りたいものがあるんだ。…あたいの宝物…だよ…恥ずかしいな…！ ママがあたいのために作ってくれたドレスなの！ その…あたいが結婚する時に着て見せて欲しいってママが…その約束を、ようやく叶えられるから…なに？ 喋り方が違う？ うるさいねぇ！ これもあたいだよ！ 盗賊になるまではこうだったの！！ ああもう恥ずかしいなぁ…！！」
長く他人からいろんなものを奪ってきたあたいがさ、一人の男に身も心も奪われる日が来るなんてね。
あたいが言うのもなんだけど、フランベはしたたかで強欲だ。
きっとこれから本当にあたいの全てを奪うのだろう。
面白いじゃないか。
ただひとつ、あたいも覚悟しなければならないことが。
フランベと旅をしている間に、間違いなく太ったんだよねぇ……
2016-09-12 14:50:03 +0000